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BIORACER

BIORACERの正体

BIORACERの正体

ベルギーのカスタムウエアメーカー、ビオレーサー。デザイン重視・マーケティング主導のお洒落でクールなウエアが市場を席巻するようになった今でも、ビオレーサーは独自の立ち位置を確保、存在感を放っている。しかし、良くも悪くも「競技者御用達」「ガチ勢が着るブランド」というイメージがあり、日本の一般サイクリストには馴染みが薄いのも事実。今記事では、改めてビオレーサーの正体に迫りたい。

その歴史

2023シーズンはあのイネオスが着て闘っていたし、ベルギーのナショナルチーム御用達だし、日本の強豪アマチュアチームが多数採用しているので、ビオレーサーというウエアメーカーを知っている人は多いと思う。しかしカスタムオーダーを基本としており、すぐ買える既製品が少ないこともあり、どこか馴染みが薄い。しかもその国籍はベルギー。自転車が国技と言われるほどの国ではあるが、フランスやイタリアやアメリカの製品が持つ個性に比べると、「made in Belgium」になんとなく地味な印象は拭えない。

ビオレーサーは、プロチームのコーチでもあったレイモンド・ヴァンストラーレンによって1984年にベルギーで誕生したメーカーだ。当初はウエアではなく、自転車関係のフィッティングサービスを主な業務としていたという。レオナルド・ダ・ヴィンチの「人間は万物の尺度である(man is the measure of all things)」という言葉を企業コンセプトとし、ダヴィンチが1490年頃に描いたという、あの有名な「ウィトルウィウス的人体」という素描をメーカーロゴに採用している。その測量技術をベースに自転車のフレームやシューズを作っていたこともあったというが、現在はスポーツ用のウエアを手掛けるウエアメーカーとなった。

ベルギーにある本社社屋。

スポーツバイク界で空力が重視され始めて十数年が経つが、空気抵抗の主な発生源はライダーである。速度域やフォームにもよるが、おしなべて自転車全体の空気抵抗の7~8割が人間によって生まれている。

フレームやハンドルやホイールは形状を工夫して空気抵抗を減らすことができるが、人間の体の形を変えることはできない。“8割”を減らすにはフォームの改善が手っ取り早いが、ペダリング、呼吸、操縦性などとの兼ね合いもあり、限界がある。

となればウエアだ。

ビオレーサーはウエアの性能に着目し、フィッティングや快適性や耐久性などの基本性能の改善と共に、ウエアの空力性能向上に挑んできた。2013年にはリドレー、レーザーなどと共にベルギーの国家プロジェクト、バイクバレーに参加。自転車専用の風洞実験施設を建立し、現在もそこで日々ウエアの空力性能を磨いている。

もの作りの姿勢

色やデザインで語られることの多い自転車用ウエアだが、ビオレーサーはとにかく性能重視。群雄割拠のウエア市場で新興メーカーが勝ち抜くには、デザインにこだわり、流行を取り入れ、マーケティングにコストをかける必要がある。流行の映えるデザインを取り入れ、製造はアジアのOEM工場に委託し、インフルエンサーにバラまいてキラキラとした世界観をアピールしまくる。マーケティング主導型だ。

一方、ビオレーサーは「マーケティングにコストをかけるくらいなら製品に投資する」「我々はいいものが作れればそれでいい」という技術・品質主導型。不器用といえばここまで不器用なメーカーもないが、各国ナショナルチームの採用や、プロ選手が自腹で購入するなど、ウエア界で一目置かれる存在になっているのはそんなフィロソフィーを貫いているからだ。

そのコンセプトが如実に反映されているのが、開発姿勢である。自転車のフレームと同じで、コンセプトと売価とデザインだけ決めてあとはアジアのウエア工場に丸投げ、というウエアメーカーも多い。しかしビオレーサーは本社で開発を行っている。

ベルギーにある本社には、開発セクションはもちろん、試作品やプロ選手供給用のウエアを作るためのプロトラボがあり、プロ選手のフィッティングも社内で行う。本社近くにはなんと風洞実験施設まであり、選手のカスタムウエア制作時のポジション調整や、自社製品の開発のため頻繁に利用している。

例えばトラック競技用のスーツを開発するにしても、短距離、中距離、スプリントなど種目によって速度域は変わる。ビオレーサーは生地メーカーと共同で風洞実験を繰り返しながら、それぞれの種目のスピードレンジを考慮した開発を行う。昨今エアロ系のウエアで多用されている溝入りの生地は、もとはと言えばビオレーサーが生地メーカーと風洞実験を行いながら共同で開発したもので、当初は3年間の独占契約を結んでいた。

もちろんそれだけコストはかかるが、コンマ数秒の世界で勝敗を争うトラック選手からは全幅の信頼を得ている。それだけに、ビオレーサーが歳月をかけて開発したウエアのパターンを他メーカーにあっさり模倣されることも多いという。しかし、ウエアの性能はパターンだけで決まるわけではない。使う生地の伸縮性や繊維の向きも非常に重要。パターンはマネできても、着心地を含めた完成度は同じにはならない。

本社内にあるプロトラボ。開発用の試作品や選手供給品などを製造する。

問われる選定眼

また、自社工場にて製品を作っていることも特徴だ。市販品を作る工場は東ヨーロッパを中心に4カ所。外部委託ではなくビオレーサー専用工場だ。縫製は繊細な生地を立体的に行う必要があるため、熟練工の存在が不可欠である。ちなみに日本向けの製品は、最も品質が安定している工場にお願いしているという。

ちなみに、パッドも自社製である。パッドはレーサーパンツの完成度を左右するほど重要なファクターだが、多くのウエアメーカーはパッド専門メーカーの既製品を採用する。しかしビオレーサーはパッドをゼロから自社開発している。ウエアメーカーによっては既製のパッドを多少カスタマイズするケースもあるようだが、ビオレーサーのようにパッドの型から新規開発を行うメーカーは稀だ。製造こそイタリアの工場に委託しているが、パッドの耐久テスト・伸縮性のテストまで自社のラボで行っている。

ビオレーサーはパッドも自社開発。

プロトラボ内にあるパッドの耐久試験機。

今回、この記事を書くためにビオレーサーについて改めて勉強したが、率直な感想は「宣伝が下手」である。「そんなすごいことやってんのになんでもっとアピールしないんだ」と幾度となく思った。マーケティングが苦手で不器用な職人集団というイメージだが、しかしもの作りに対してはどこまでも真摯で誠実だ。

スマホの小さな画面の上で指をちょっとスライドさせるだけで世界中の情報が得られる時代。日々大量の情報が消費され、瞬く間に忘れ去られる時代。そんな今、「いいものを作れば分かってもらえるはずです」なんて言っていれば笑われてしまうのだろう。

しかし、いくら見た目がお洒落でも、上辺だけで中身のない製品には、強烈な求心力も先鋭の性能も宿らない。多少口下手でも、真摯な作り手が信念と情熱を注ぎこんだものにこそ本当の価値がある。

こんな時代だからこそ、個人の選定眼が問われている。

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