オーダーサイクルジャージ 最大手のBIORACER(ビオレーサー)メディアサイト

BIORACER

フルブリーズ開発ストーリー(前編) 灼熱の山岳で闘うために

フルブリーズ開発ストーリー(前編) 灼熱の山岳で闘うために

2024年2月、ビオレーサー・ジャパンは、一着のエアロスーツを発表した。正式名称は「EPIC フルブリーズ ロードレースエアロスーツ」とかなり長いので、社内ではシンプルにフルブリーズと呼んでいる。実はこのフルブリーズ、本国主導で開発させ世界中で販売される製品ではなく、「日本のヒルクライマー」をターゲットに絞ったビオレーサー・ジャパン企画の日本独自モデルである。その開発譚を日本の担当者に話を聞いた。前編では、発案のきっかけから開発中盤までのエピソードを記す。

企画の発端

――まず、「EPIC フルブリーズ ロードレースエアロスーツ」の概要を。

開発担当者O:カスタムのEPICラインのみに設けられたスペシャルな真夏用ウエアで、世界中で展開されるワールドモデルではなく、日本市場向けに作られたジャパンオリジナルモデルです。もともと、EPICシリーズにもICONシリーズにも、酷暑向けに通気性を高めたブリーズというモデルがありましたが、今回のフルブリーズとは別ものです。

EPIC フルブリーズロードレースエアロスーツ(3万9,800円)

――日本専用品とのことですが、これまでこのような国内専用ウエアを作ったことは?

O:ここまで本社とミーティングを重ねて独自のモデルを作ったのは初です。僕としても、まさか本社の開発部がここまで歩み寄ってくれるとは思っていませんでした。

――では、フルブリーズを企画したきっかけを教えてください。

O:非常に厳しい暑さが予想された東京2020用に開発され、大会が行われた2021年に市場に投入された「EPIC TOKYO GR+ ロードレースエアロスーツ」というモデルがありました。グラフェンを用いた特殊な生地を使った非常に涼しいモデルだったんですが、廃版になってしまったんです(グラフェンに関する詳しい情報はこちら)。理由は、生地の価格高騰と、入手性の悪化。日本価格で約6万円もする高価なウエアなので、さらにコストをかけて作り続けるのは現実的ではないと。

EPIC TOKYO GR+ ロードレースエアロスーツ

――「GR+」は放熱性が非常に高く、高温多湿の環境で選手に好評だったようですね。

O:そうなんです。そもそもGR+は東京2020のために開発されたスペシャルモデルであり、本社としては「EPIC TOKYO GR+はもう役目を終えた」という認識だったんです。しかし、日本は暑い国ですし、ヒルクライムが人気ということもあって、まだグラフェンジャージの需要がありました。だから「日本だけは注文する余地を残してくれ」とお願いをして、一応ラインナップには残してあります。ただ世界的にはもう廃版。そこで、日本の酷暑のヒルクライムにも対応でき、かつ価格を抑えたウエアを開発できないかと、ビオレーサー・ジャパンから本社に打診をしました。コンセプトは「真夏のヒルクライムでアドバンテージになる軽量エアロスーツ」です。

コンセプト

――完全に日本主導なんですね。いつ頃のことですか?

O:2023年の6月くらいですね。本社に要望を出すにあたって、「日本のクライマーが求める性能とは何か」をはっきりさせておかなければいけません。そこで、ビオレーサーを使ってくれているチームにアンケートをとり、ウエアの各性能(フィッティング、軽量性、伸縮性、耐久性、通気性、空力、価格、快適性など)のうち、どの要素をどれほど重視するかや、襟の形状、袖の作り、ポケットの位置と形状など、細かいところまでアンケートをとりました。

――ターゲットとなる日本のクライマーの意見を取り入れようと。

O:そうです。その結果、軽量性は上位に入ったものの、1位ではありませんでした。彼らはウエアに過度な軽さを求めていない。いい生地を使えば自然に軽くなることに加え、ウエアが数グラム軽くなったところで効果はかなり小さいですから。上位にきたのはフィッティングとエアロです。この2つの性能は同義でもありますが、クライマーは細身の方が多いので、既存のウエアだと余ってしまうことが多いようなんです。その次に通気性。そして耐久性。トレーニングでも使えるような耐久性がほしい、と。軽量性はその次でした。しかし、生地の性能として、耐久性と軽さと通気性はお互いに相反するんです。

――耐久性を高めようとすると分厚くすればいい。しかしそれでは重くなるし通気性が悪くなる……。

O:そうです。だから生地の選定には苦労しました。何種類かの生地を提案され、価格と性能を天秤にかけながら検討した結果、ウエアの通気性を大きく左右する前面パネルには昨年イネオスチームが使っていたブリーズ・メッシュ生地を採用しました。非常に薄い生地の上にメッシュを重ねた、特殊な構造のものです。最初は袖もこのブリーズ・メッシュ生地にする予定だったんですが、フィッティングがルーズになってしまってNG。そこで、縦溝の入ったエアストライプにしてほしいとお願いしたら、ブリーズ・メッシュ生地とエアストライプの伸縮性が違いすぎ、破れやすくなってしまうということでNG。

――なるほど。ウエアの生地は、各部に求められる性能だけではなく、縫い合わされる相手の生地との相性も重要ですね。

O:そうなんです。そこで、ビブショーツに使っている別のメッシュ生地を袖に採用しました。伸縮性も問題ないし、通気性も良好でした。

行き詰っていたそのとき……

――生地が決まったら、クライマーが求める「エアロ」と「フィッティング」ですか。

O:そうです。このフィッティングの調整が一筋縄ではいかなくて。日本のストイックなクライマー向けなので、通常モデルより細身にしてもらおうと思いましたが、「裾の長さなどは調整できるがフィッティングの大変更は難しい」と言われてしまいました。生産の都合もあって他のモデルとガラリと変えることは不可能なんです。だから最初はEPICのフィッティングを流用する案で進めていました。苦肉の策として、レディースのフィットを使うとか、2XSのさらに下の3XSを用意し、細身の方にはワンサイズ下げてもらうことも考えてたんですが、それはちょっと違うかなと。

――レディースフィット流用とかワンサイズダウン策は、ウエアにとって妥協っちゃ妥協ですよね。

O:その通りです。さてどうしよう……と悩んでいたある日、本国の担当者から連絡がきたんです。「イネオス用に開発したフィッティングが使えることになったけど、どうする?」と――。

(後編に続く)

 

RANKING

DAILY
WEEKLY
MONTHLY
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
  1. 1
  2. 2
  3. 3
  4. 4
  5. 5
PAGE TOP