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ARise Performance市川氏インタビュー(後編)/風向きは変わるか

ARise Performance市川氏インタビュー(後編)/風向きは変わるか

アライズパフォーマンス。略してARP。最近やたらと耳にするホイールである。決してビッグメーカーではなく、個人のホイールビルダーの手によるものだが、有力なハイアマチュアたちがこぞって使い始めた。富士ヒル。乗鞍。おきなわ。ふくしま。ニセコクラシック。ヒルクライマー/ホビーレーサーたちの甲子園と言われるビッグレースで上位入賞多数。人気がありすぎて一時は受注をストップしていたほどだ。ブランド立ち上げから10年が経つ今年は、富士ヒルでRoppongi Expressの大前翔選手がアライズパフォーマンスのホイールを使って優勝したことも話題となった。ビルダーの市川氏はどんな人物か。なぜここまで支持を得るようになったのか。浦和美園にある工房兼自宅にて、ご本人にお話しを伺った。
(前編はこちら:ホイールの在り方とは)

オリジナルのリム&ハブへ

実はアライズパフォーマンスのリムはオリジナルである。

「1、2年前に金型を起してオリジナルのリムを作ったんです。既存のリムのなかからいいものを探すより、自分で作っちゃった方が理想のホイールに近づくことに気付きました。リムの金型は現在7つ保有しています」

7つ保有しています、と簡単に言うが、金型は高い。

「今は円高も手伝ってだいぶやばいです(笑)。ただ、えーぞうさんが広めてくれたおかげで資金に多少は余裕ができたので、そういうところにコストをかけられるようになったんです。でも、リムの金型は確かに高額なのですが、リムの注文数などに制約はないので、金型作成のハードルはそれほど高くありません」

「どちらかというと、オリジナルハブを作る方が大変です。まずサンプル製作にコストがかなりかかりますし、メーカーによって製品版の最低ロットが100~200セットという条件が課されます。今回の新型ハブ開発では3社でサンプルを作り、それぞれサンプルハブのテスト→手直し(追加費用)→再テストを繰り返し、時間もコストもかなり掛けました。そうして各社の最終型サンプルを比較し、今回は最低ロット200セットのメーカーのハブを採用したので、初回注文だけでかなりの投資をしてますね」

しかし、既存のリムもハブも、それなりの選択肢がありそれなりのクオリティにものが出回っている今である。

「そうですね。最近の手組パーツとして売られてるリムやハブって、結構レベルが高くなってるんです。出来合いのものを組んだだけでもそれなりにはなる。だけど、突き詰めると不満が出てくる。そこを潰さないと理想のホイールにはならないですね。だから新型ハブを採用した新シリーズは『僕が考えた最強のホイール』になってます(笑)」

新型ハブを採用した新型が「ヴュータンシリーズ」で、モデル名の末尾に「-V」が付く。2026年8月現在、ちょうどモデルチェンジの真っ最中で、製品ページにはまだ旧モデルの情報も混在しているので注意。

新型については下記の記事で詳細が確認できる。
・ホイール受注再開のお知らせ:https://www.arise-performance.com/orders-reopened/
・新型の仕様と先行予約について:https://www.arise-performance.com/new-model-info/

 

意外と少ない

現在の作成数は?

「去年1年で200本はいってないと思います。たぶん180セットぐらい」

単純計算で2日に1本。思っていたよりずっと少ないが、お客さん一人ひとりに時間をかけてヒアリングし、それに合わせて組み、再調整やメンテナンスなどのアフターフォローも考えると、月産で10セットが限界だという。

富士ヒル、乗鞍、ニセコ、おきなわなどのレース前は「どうしても間に合わせたい」という人が多くなるため、今でもレース前は寝る時間を極限まで削って組んでいる。

「再調整やアフターフォローがアライズのメリットだと思ってくださっている方も多いですから。そういう方々を裏切りたくないですし、そこをないがしろにするとたぶん一気に『あそこはダメになった』という噂が広まると思います。ホイールは買って終わりじゃないですからね」

ARPの今後

アライズの今後についてはどうか。認知度が高まり、オーダーの列ができ、忙しくされている市川さんだが、例えば人を雇って作業効率を上げるなどの考えは。

「今のところは、人を雇うことは考えていません。人に任せられる部分が今のところ見当たらないというか」

しかし、ホイール組みにある程度専念している今も多忙だろう。デスクの横のゴミ箱に山になっているエナジードリングの空き缶がそれを物語っている。寝不足が原因で体調を崩し、入院したこともあるらしい。

「バイトを雇って仮組みだけでもさせたらどう?ってよく言われるんですが、仮組みをするには、最低でも私と同じくらいのホイール組みの腕がないと困るんです。組みあがったときの最終状態をイメージしながらできる人じゃないと任せられない。それに、私が全ての作業をしているというところにお客さんは満足していただいていると思うんです。だからできる範囲で、自分が組むのが正解なのかなと。月産10本という数ですが、たぶん作業的にはもっと増やせると思います。ホイールを組むだけなら全然増やせる。でも、問診があり、最適化があり、アフターサービスがあり、テンションの再調整があり……ということを考えると、どうしてもそれくらいになっちゃう」

市川さん、やっぱ真面目である。

GD4、プチインプレ

新型ハブになる前のGD4(カーボンスポーク版)に少しだけ乗らせていただいた。46mmハイトながらカーボンスポーク版で1040gという軽さを誇るARPの定番モデルである。せっかくなので、テンションの差でどれほど走りが変わるのかも試してみた。

まずはテンションが低い状態から。旧型ハブで組まれたものだが、それでも前後セットで1040g。46mmハイト&チューブレスとしては異常なほど軽いが、動的性能は非常に高い。加速、巡航、コーナリング、登坂の全てのシーンで欠点がない。レーシングホイールとしての完成度は一級だと思う。ペダリングフィールは自然で踏みやすく、速いホイールでもあるが、扱いやすいホイールでもある。

カーボンスポーク採用ホイールは現状玉石混合という印象だが、これは「動的性能は高いが踏みやすい」といういいバランスに着地している。横風の影響を受けやすいと感じたが、46mmならこんなものか。正直、フロントに関しては、これ以上テンションを上げると操舵に対する反応が過敏になり、扱いにくくなるのではないかと感じた。

店舗に戻り、テンションを上げてもらう。

全くの別物である。反応性は高くなり、より一層シャープに動くようになるが、ペダリングフィールが刺々しくなるとも感じた。短時間であればこの過敏な走りでも問題ないだろうが、長距離長時間になると脚に疲労が溜まりやすいだろう。

面白かったのはフロントである。「これ以上テンションを上げると操舵に対する反応が過敏になり、扱いにくくなるのではないか」と予測したが、実際はテンションを上げたほうが好印象だった。思うに、操舵操作とホイールの挙動に曖昧さがなくなったことで、操舵→挙動という一連の動作の精度が上がり、不安定さを感じなくなったためだろう。個人的には、フロントはテンション高め、リヤはテンション低めというセッティングが好みだった。

これまで数多くのホイールに試乗したが、同じホイールでここまでテンションを変えて乗ってみたのは初めてかもしれない。改めて、テンションによって乗り味が激変することを痛感した。気付かせてくれた市川さんに感謝である。

存在意義

「このようなインタビューをしていただいたことで、ホイールの最適化という方法や、このようなスタンスでホイール組みを受注をしているという情報が出ますよね。もしかしたら『じゃあうちもやってみようかな』というところが出てくるかもしれません。そうなると、業界が少し変わるのかなと思います」。

最後に市川さんはこうおっしゃった。

完組ホイールにしかできないことがある。風洞実験やCFD、専用リム専用ハブ専用スポーク完全独自構造などによる理詰めの性能追求だ。

手組ホイールにしかできないこともある。ユーザー一人ひとりに合わせるパーソナルマッチングだ。

様々な環境の変化によって、ビッグメーカーでなくとも質の高いリムやハブが入手できるようになり、専用設計を行うハードルも下がったことで、前者と後者の純粋な性能差はかなり小さくなっていると感じる。とはいえ、ビッグメーカーが作るホイールの商品力はすさまじい。プロが使い、ブランド力があり、羨望の的にもなれ、高価かもしれないが所有欲が満たされる。

ここまで巨大な資本が他の全てを蹂躙してしまうそんな現代にあって、アライズパフォーマンスの躍進は、ある意味痛快な逆転劇であり、大げさかもしれないが、一つの奇跡のようなものである。

もちろんそれは、経験に裏打ちされた技術があり、お客さん想いで、真面目で、機械が好きで、機械いじりが好きで、住宅街の一角でコツコツとホイールを組むという地味な作業を苦と思わず、むしろそれに幸せを感じるような、市川さんという組み手がいてこそ、実現したことではあるが。

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