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富士グラベル参加レポート/僕らが動物に戻った日

富士グラベル参加レポート/僕らが動物に戻った日

今年の参加者は550人と、若いイベントにしてはかなりの規模に成長した「富士グラベル」。当然、SNS、ブログ、メディアなどで数多の参加レポートがアップされるだろうから、ここではちょっと視点を変えて今年の富士グラベルを眺めてみてもいいかもしれない。例えば、「なぜわざわざ走りにくいオフロードで自転車に乗るのか」というような視点に。よくよく考えれば不思議な話だ。あれだけ重量やら空気抵抗やらセラミックベアリングやらを気にするのに、わざわざ走りにくく常に振動に襲われ転びやすく泥だらけになるオフロードを好んで走る人たちがいる。わざわざ参加費を払ってそんな経験をするためにイベントに出る人たちがいる。スタッフによる富士グラベル参加レポート。

直立二足歩行

地面に対して脚と胴体を垂直に立て、二足歩行をする動物は人間だけである(ペンギンや恐竜は二足歩行だが直立ではない)。直立することによって両手が自由になり、道具を使えるようになるが、重要なのは骨格の変化だ。直立したことで脊椎で頭部を支えられるようになるため、体重に対して巨大な脳容積を得ることができるようになった。

手が器用になり、道具を使いこなし、脳が発達し、知能はさらに高くなる。いつしか服を着て靴を履き、火を使い家を建て、屋内で暮らすようになった。人間社会がここまで発達したのは、直立して二足歩行をしたからである。

その代わり人間は野生を失った。体毛はなくなり、皮膚は弱くなる。今や住居と衣服がなければ生命の維持すら難しい。二足歩行では喉、心臓、腹部、股間等の急所を常に前面に晒すことにもなる。機械と電気がなければ、たちまち立ち行かなくなる。そんな生物は人間だけだ。都会で暮らしていれば、土を踏む機会すら少ない。

野生

しかし、そんな人間の中には、脳の奥底に「動物だった頃の記憶を抱く者」がいる。野山を駆け巡る動物たちへの憧憬を持つ者がいる。いずれも無意識なものだが、そういう人たちは自然の中で運動することを好む。動物だった頃に戻りたいのかもしれない。自転車でオフロードを好き好んで走ろうとするのは、そういう人種だ。

登山家が山と対峙するとき、飛行機乗りが大空を舞うとき、ダイバーが海に潜るとき、キャンパーが暗闇の中で物思いに耽るときと同じように、自転車乗りがグラベルバイクで山道を駆けるその瞬間だけ、人間は動物に戻れる。自転車乗りは、動物に戻るためにオフロードを走るのだ。

しかし野生を失った我々が動物に戻るのは意外と大変である。重い頭部が高い位置にあるため、バランスが悪く転倒しやすい。特に悪路では四足歩行ほどの安定感と走破性は得られない。そもそも弱体化した人間の身体能力は低く、自然の中に足を踏み入れるのは危険だ。だから自転車でその「動物への回帰」をやろうとするなら、

①専用の機材(MTBもしくはグラベルバイク)
②技術(ライディングテクニック)
③仲間(ショップもしくはコミュニティ)
④環境(いいコースもしくはイベント)

が必要になる。

 

2日間に拡大された富士グラベル

さて、今年から土日の2日間開催となった富士グラベル。土曜は「富士サイクルフェスティバル」として富士グラベル受付のほか、各ブランドのブース出店、初心者講習、キッズバイク体験、出展ブランドの試乗、トークショー、じゃんけん大会などが行われた。

会場は、富士山麓の雄大な自然の中にある大規模公園「富士山こどもの国」で、園内には広場や遊具、動物園、キャンプサイト、パオ(宿泊用の常設テント)集落、MTBコース、カヌーを楽しめる池などがあり、夏季はニジマス釣りもできる(しかも釣った魚はその場でさばいて焼いて食べられる)。パパが走ってる間、ママとキッズは園内で遊びまわれるというわけだ。

また、今年から富士グラベルにはパオを活用した宿泊プランや、隣接するオートキャンプ場でのキャンププランも用意され、走るだけでは終わらない「滞在型サイクルイベント」としてリニューアルしている。

第一回となる昨年は前日が嵐でイベント当日も曇天続きだったが、今年は期間中ずっと快晴だった。

 

前日、会場ではグラベルビギナーを対象にした初心者講習会が行われた。講師はオフロードの達人である三上和志さん(サイクルハウスMIKAMI店長)と、元プロロード選手の岸 崇仁さんという豪華な布陣。会場にはパイロンやラダーも用意され、タイヤの空気圧や簡単なバイクのチェック法から、乗り降り、フォーム、曲がり方、止まり方をレクチャー。最後は会場内の試乗コースを使って実践練習も行われた。

参加者からは、「ウェブや動画では、実際の動きまでは伝わりにくい。実際に走りながらの講習はすごく為になった」との声が聞かれた。

 

ただし、ライド前日の「富士サイクルフェスティバル」は、もっと工夫ができるだろう。正直、受付のために前日に会場に来たが、メーカーブースを一回りしたらやることがなくなり手持ち無沙汰、という参加者も見られた。富士山こどもの国の各施設への導線をもっと明確にしたり、富士グラベル参加者にはこどもの国の各アクティビティの割引券を提供したり、メインステージでのイベントを充実させたり、体験型のブースを出展するなど工夫すれば、2日間のグラベルフェスとしての魅力を確立できるはずだ。予算や人員などのハードルはあるのだろうが。

 

ビオレーサーによるプレミアムライド

日曜日が「富士グラベル」の本番。コースは

・ショートコース(距離:29.3km、獲得標高:585m、未舗装率:7割、エイド:1ヶ所)
・ミドルコース(距離:51.4km、獲得標高:1210m、未舗装率:7割、エイド:3ヶ所)

の2種類。コースの大半は普段は立ち入りが禁止されているエリアで、今イベントのために特別にオープンされる。

普段ならゲートが閉じているコースも、今日だけはオープン。

 

富士グラベルに出店したビオレーサーは、「プレミアムグラベルライド by BIORACER」というブランドライドを実施した。「舗装から砂利へ」をテーマとしたグループライドで、

・グラベルバイクは持っているが、本格的なフィールドを走ったことがない方
・河川敷などのライトグラベルしか経験がない方
・グラベルライドを共に走るコミュニティをお探しの方

をターゲットに開催されたもの。走るのはミドルコースで、お揃いのベストを着て、グループライドで富士グラベルを堪能できるプランだ。

要するに、前出の①機材をクリアした人に向けて、②技術、③仲間、④環境を一度に揃えて楽しんでしまおうという算段である。

このライドへの参加費は18000円と、数字だけを見れば高く思えるが、参加者だけが入手できる富士グラベルオリジナルデザインのビオレーサー製ベスト(15000円相当)と、「富士サイクルフェスティバル 2026」にて開催される「グラベルバイク初心者講習」の受講費(1000円)と、ミドルコース参加料(8500円)が含まれているから、実はめちゃめちゃお得なバリューセットだ。

この「プレミアムグラベルライド by BIORACER」には、ビオレーサー・ジャパンのスタッフも参加。ライド前の挨拶で、ビオレーサー・ジャパン代表の和田は「プレミアムグラベルライド by BIORACERという名前が付いていますが、正直ビオレーサーはどうでもいいんです。このライドをきっかけにして、自転車の楽しみを広げてほしい。そういう想いで実施しました」と語った。

全員笑顔

参加者は全員が初対面だが、砂利道でじゃりじゃりしているとすぐに打ち解ける。グループ内ではバイクの話、普段走っているフィールドの話、走り方やテクニックの話、家族の話など、会話が絶えなかった。スピード域が高く並走できないロード系イベントでは、この温かい雰囲気は出ないだろう。

コースの難易度は低く、乗車率は98%くらいか。

 

スタート直後の一番の絶景スポットで記念撮影。

 

グラベルバイクと絵的に相性のいい貯木場が登場。参加者たちは自身のスマホに写真を納める。

 

オフロード率7割のコースでグラベルバイクで獲得標高1200mオーバーはなかなかハードで、一人なら苦行になりかねないところだが、みんなで励まし合いながら走ればいつの間にか頂上だ。

 

グラベルビギナーも多かった「プレミアムグラベルライド by BIORACER」のメンバーだが、最後はやっぱり全員笑顔。

 

富士グラベルの参加者たちは、今日だけは自転車の上で動物に戻って、思いっきり走り回った。グラベルイベントには笑顔が溢れているが、それはみんなが動物に戻って、仲間と共に本能の赴くまま野山を駆け巡ったからだ。

各種スポーツ、登山、ダイビング、旅、キャンプ……一見何の実利もない無駄な行為であり、ときに危険でもあるそれらは、実は文明と技術の発達によって弱体化してしまった人間が無意識のうちに抱く「強くて自由だったあの頃に戻りたい」という欲望の発露だ。

自転車なら、それはグラベルだ。
そして、そのハードルを下げてくれるのが、富士グラベルのようなイベントだ。
来年も動物に戻りにここに来よう。

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