BIORACERが贈るサイクリング情報メディア

BIORACER

グラベル対談/日本でムーブメントは起きるか

グラベル対談/日本でムーブメントは起きるか

ビオレーサー・ジャパンで様々な業務をこなすOと、彼をサポートする外部スタッフのY。ビオレーサーもグラベル用ウエアをリリースし、この新たな潮流に力を入れ始めたことを機に、「日本におけるグラベルブーム」を考えた。

OとYのグラベル歴

Y:僕は数年前まで完全にロードの人だったんです。MTBはほぼやってなかったし、2015年頃にGTやサーリーあたりが「砂利道も走れるドロップハンドルのバイク」を出したときも、当時はグラベルロードという言葉がありませんでしたが、「なんだこれ?」って感じでした。「これならMTBでいいし、ドロップハンドルで悪路走りたいならシクロクロスがあるし」「そもそも日本で走る場所ある?」みたいな冷めた感じ。

O:最初はみんなそんな感じでしたよね。

Y:そう。それで最初は距離を置いてたんです。でも2021年くらいに借り物のグラベルロードでグラベルを走ってみたら一気にはまりました。すぐにグラベルロードを買って、今はもう3台目です。近所にいいコースがあるというのも大きい。ほら、あのトレイルっぽいところ(OとYはかなり近所に住んでいる)。

O:ありますね。そもそもYさんが考えるグラベルの魅力ってなんですか?

Y:僕はずっとロードでヒルクライムをメインにやってたから、基本は上半身をカチッと固めて、ただペダルを漕ぐだけ。それって「ペダリングして進ませる楽しみ」ですよね。でもグラベルロードには、それに加えて「不安定な道でバイクを振り回して、乗り物を操る楽しみ」が加わる。それはMTBにもあるけど、MTBは「ペダリングして進ませる楽しみ」が希薄ですね。でもグラベルは「操る楽しみ」も「ペダリングする楽しみ」も両方を楽しめる。

O:なるほど。

Y:今まであまり経験してこなかった「乗り物を操る」ってことがものすごい楽しくて、ハマった直後はグラベルばっか乗ってました。しかも、ロードからの移行組みにとっては、機材のプラットフォームがロードと一緒だから、移行するハードルが低いんですね。ロード→MTBはやっぱハードル高いですよ。なにもかもが違うから。Oさんは?

Oの愛車は日本のmonoral bike GR。

O:僕も完全にロード畑でした。あるとき、周りのみんながシクロクロスをやりはじめて「じゃあ僕もシクロクロスやってみようか」と思い立って、なんでもできそうなチタンフレームのグラベルバイクを買ったんです。これならグラベルもシクロクロスも走れるだろう、と。最初はそれでグラベルを楽しんでたんです。近所のグラベルを走ったり、セミスリックのタイヤ付けてツーリングもしたりして。一度、友人たちと房総でグラベルライドをしたんですが、それはすごく楽しかった。日常から隔離されて、他の音が全く聞こえない林道にいる感じは唯一無二だった。

Y:本来の目的だったシクロクロスは?

O:シクロクロスも一時本気でやってました。ちゃんとトレーニングもして。で、シクロクロスを本格的にやろうとなるとグラベルバイクじゃ限界があるんですね。ジオメトリも全然違うし。そこでジャイアントのTCXを買って、置く場所ないからグラベルロードは一度バラしちゃって、今はそのままです。

Y:グラベルにはそれほどはまらなかったと。

O:やっぱり一緒に遊べる人が身近にいないというのが大きかったですね。千葉に一緒に行った友人とはいつしか連絡をとらなくなってしまって、一緒に走る人がいなくなっちゃって。やっぱ仲間の存在は大きいですね。

Y:そうそう。僕がグラベルを楽しめているのは仲間の存在が大きいですね。自転車でオフロードを楽しもうとすると、いいコースが肝になりますよね。でも、日本特有の事情だと思いますが、いいオフロードコースってなかなか表に出てこない。

O:日本の山事情はグレーですからね。

Y:そう。ネットで探しても出てこない。結局、地元に根ざしたコミュニティに入ってないと深く楽しめない。僕は家が近いグラベル仲間がたくさんできたので、彼らにいい道を教えてもらって、どんどんグラベルの楽しさが広がっていきました。それに、ロードだと脚力差とか走りのリズムが合わないとグループライドがストレスになりますが、グラベルだと不思議と脚力差も機材の差も感じにくいんですよね。トレイン組んでるわけでもないから、みんな好き勝手に走ってて、景色のいいところで集まってくっちゃべるみたいな。グラベルっていい意味ですごく緩いから、仲間と走るのが楽しいんですよ。もちろん一人でも楽しいんだけど。だから自分は仲間に恵まれましたね。ここまでグラベルを楽しめてるのは全部仲間のおかげ。

O:トレランなんかと一緒で、コミュニティの力が重要な鍵なんですね。ぼっちになるとどんどんトライする機会がなくなる。

Y:それはありますね。僕が入ってるグラベルコミュニティでは、メンバー専用のチャットで「ここにこんなコース見つけました」「今週末走る人いますか?」みたいなやりとりが頻繁に行われてます。

Oがグラベルバイクをバラした理由

O:あとは、ロードと違って本格的に楽しもうとしたら手間もコストも時間もかかってしまうこともネックでした。本格的なグラベルに行こうとすると、車にバイク積んで時間かけて高速走って……と、スキーに行くのと同じくらいのコストがかかるんですよね。手軽ではなかったり、周りに一緒に走る人がいなかったり……と、どんどん遠のいていってしまった。グラベルの楽しさは知ってるんだけど、はまり続けるには手間がかかりすぎる。「グラベルは好きだしもっとやりたいしけど、いいコースを知らないし、本格的に楽しむのは手間とコストがかかりすぎるし……」と葛藤している人はいっぱいいるんじゃないかなと思ってます。

Y:グラベルバイクは近所をゆるゆると走っても楽しいけど、本格的に非日常感を味わうなら遠出する必要はありますね。あ、グラベルのいいところがもう一つ。数字に縛られないところ。ロードだと、レースをしない人でも数字を気にしてしまうところがありますね。今日は何km走ったとか、FTPがどうとか、この峠のタイムがだんだん落ちてきたとか。でもグラベルって、まあ人によるとは思いますが、メーター付けなくてもいい。数字から解放される。友達と楽しくライドするためだけに走る。

O:それはグラベルの弱みにもなり得ると思います。ロードだと100km150km走ったとか、2000mアップしたとか、ソロライドでも数字でそれなりの達成感を得られるんだけど、グラベルだとそこはなかなかない。

Y:確かに。距離が短いですからね。「あれまだ30kmしか走ってないじゃん」みたいな。

O:そう。数字に出ないので、「どこで達成感を得ればいいんだろう?」って。一つの答えは、やっぱり一緒に走った人たちとの体験の共有ですよね。「今日は楽しかったな」っていうグループライドのあの楽しさ。僕はソロライドもしますが、ことグラベルなると、誰とも共有できてないところに虚しさを感じてしまうときがあって。

Y:なるほど。数字で達成感を感じにくいがゆえにね。最近始めた人はショップに所属しなくてもスポーツバイクライフを送れますよね。通販でキャニオン買って、YouTubeで組み立ての動画見てメンテナンス学んで、タイヤを Amazonで買って……って全部一人で完結しちゃうから、コミュニティに所属しなくて楽しめる。ロードはそれでもいいんですよ。RWGでコース探して見てStravaやってズイフトでトレーニングして FTPとにらめっこしてみたいな。でもグラベルってそれだと、やっぱり広がりが少ないですね。

O:だいぶ限定的になりますよね。

Y:ショップに飛び込んでもいいし、オンライン上のコミュニティもあるんだけど、イベントに行って同じグループで走った人と仲良くなる、で全然いいと思うんですよね。人見知りでも、イベントで一緒に走ると不思議と会話が始まって仲良くなったりできるもんです。僕はそうして何人も友人ができました。子供の頃、公園でたまたま一緒に遊んだ子と仲良くなる、みたいな感じ。今はLINEですぐに連絡先が交換できるし。

O:それが正解に近いんじゃないかと思います。

日本のグラベルシーンの“そうじゃない”感

Y:では、日本のグラベルイベントについて。増えてはきましたが、日本ではまだグラベル系のイベントが少ないですね。

O:そうなんですよ。グラベルイベント自体がそもそも少ないから、流行る/流行らないという議論自体がナンセンスだとも思います。土台がないのに流行るも流行らないもない。そんな状況なのに「グラベルの本場アメリカでは……」なんて話になる。アメリカはあの土壌があってこそグラベルという遊びが自然と根付いたのに、アメリカ特有の話を急に日本に持ち込んで、「アメリカと違って日本では流行ってないよね~」っていうのも変な話ですよ。日本人あるあるですけど、海外への羨望の眼差しが強すぎ。

Y:ははは。それはある。

O:海外のものと比較しすぎ。日本には日本にしかない良さもあるでしょうに。海外には羨ましい環境があるかもしれないけど、日本にも楽しいところはいっぱいある。グラベルに関しては窮屈な側面も多いかもしれないけど、でもいくら「海外ではこんなに素晴らしいんだ」って声高に言ったって、日本の地形は変わらないわけだし。いちいち比較して日本のネガティブキャンペーンしてもしょうがない。そこに関してはもったいないと思います。だって、山岳地帯が国土の7割という日本特有の地形があったからこそ、ここまでヒルクライムレースというものが根付いて、これだけ大きな大会が生まれるようになってるんでしょう。

Y:ビオレーサーがメインスポンサーの富士ヒルとか。

O:そう。だから、日本のグラベルの現状と楽しみ方に即したイベントが増えてくると、日本のグラベル事情は変わると思います。そうなれば僕ももう一回復帰しするだろうし。

Y:グラベルイベントができる場所となると、自然と田舎になるから、地方のイベントが多かったですね。昔でいうとグラベルイベントって言うといきなりニセコになっちゃったから、相当ハードル高い。

O:高すぎですよ。

Y:飛行機輪行は海外行くぐらいのハードルなので。やくらいも白馬も遠い。「すでにグラベルにはまってる人」じゃないと行かない。

O:そこですよね。日本の自転車業界は「はまってる人」の定義が狭すぎますよ。業界の人は自転車をやりすぎてるから、自分たちと同じくらいグラベルを熱心にやってる人を「グラベルにはまってる」と判定する。でも、「グラベルにはまってない」って判定された人たちの中にも、グラベルを走ることは好きな人はたくさんいると思う。僕もそうですけど、マラソンだって「2時間半で走る人たちだけがマラソン好きか」というと全然違うでしょう。フルマラソン一回完走しただけでそれはもう「マラソン好き」ですよ。

Y:確かに、タイヤ交換して砂利道をガンガン走る人たち=グラベルライダーということになってる。業界の中ではそういう風潮ありますね。はまってる人が大半だから。「え!アンバウンド行かないの?」みたいな。行けるわけねえだろって。

O:そう。でも実際の趣味ってそうじゃない。業界全体が切羽詰まりすぎて、やる人に対して求めすぎ。みんな「グラベルかくあるべし」が強くて全然自由じゃない感じ。

Y:そうですね。自由な乗り物って言っときながら。

O:そうそう。自転車の場合はちょっと極端ですよね。自分たちで狭く定義しすぎてる。いわゆるコアなグラベルライダーではなく、「なんとなく砂利道を走る人たち」「サイクリングしてて脇道に入ってみたいと思ってる人たち」をターゲットにしたイベントがもっとあれば、景色は変わると思う。

日本に合ったグラベルイベントとは?

Y:では、具体的にはどんなイベントがいいと思います?

O:イベントのメインディッシュはもちろんライドでいいんだけど、「バーベキューが楽しい」「キャンプしに行ってる」「自転車もあるフェスって感じ」という参加者が増えれば、リピート率は高くなるんじゃないかと。100人中100人全員がグラベル乗る人が集まるイベントは、そんなに発展しないような気がします。100人中30~40人がグラベル乗ってて、残りの60人か70人はただ音楽聴いて、ボーっとたき火を見ながらビール飲んでるか横になってるか、みたいな。そういうファンイベントがもっと充実すれば、「グラベルにはまってるんです」って言う人たちは増えると思います。片やグラベルにハマってる人たちがわーって走ってて、片や「キャンプ楽しいねえ」って言ってて。

Y:走らない奥さんとか子供が来ても楽しめことも必要だし。

O:それもすごく重要ですね。

O:もっと言うと、イベントに手ぶらで行って楽しめれば最高。

Y:あ、レンタルバイク?まあ確かにスキーとかスノボはそうですよね。

O:そう。「ウインタースポーツにハマってるけど板はレンタルで十分」みたいな感じ。あとは例えば、タイヤとホイールだけそのイベントに合ったものを現地で借りれるとか。

Y:なるほど。

O:いわゆるオールロードを持ってる人だったら、普段はスリックタイヤのロードホイールを履かせておいて舗装路を楽しむ。グラベルイベントのときだけコースにフィットしたタイヤとホイールを借りて走る。スノボ行って板だけ借りるとか、銭湯行ってタオルだけ借りるみたいな感じ。そういうことができたら、もっと参加しやすくなる。

Y:確かに。もちろん貸す側にはいろんなハードルはありそうだけど、面白いですね。オフロードはコースによって適したタイヤが全然違いますから。

O:スキーの板持ってなくても、年に数回スキー場言ってレンタルスキーで滑りを楽しんでる人は「スキーにはまってる」「スキーが好き」って言えるでしょう。グラベルだって同じですよ。

Y:そういう意味では、昨年から始まった富士グラベルは、ちょうどいいんじゃないですか。関東近郊からなら車で一時間ちょいじゃないですか。初心者も走れるショートコースもあるし、前夜祭も初心者向けの講習会もあるしキッズバイク体験もあるし。富士サイクルフェスティバルは富士山こどもの国の園内で行われるので、パパが走ってるときは子供はママと一緒にこどもの国で自由に遊べる。

O:今年から二日開催になって、富士山こどもの国の中にあるパオにも泊まれるし、キャンプとか車中泊もできる。毎週毎週走らなくても、一年に2、3回こういうグラベルイベントに出て楽しんでたら、その人のグラベルバイクは本望だと思うんですよ。

Y:そうですね。

O:「ライドがメインじゃないけど毎年参加してる」って人はそのイベントに十分はまってるって言えるし、「日本でグラベルファンが増えてる」って言えるでしょう。結局、そういう人の集合体がムーブメントを起こすんですよ。

 

BIORACER公式通販サイトCaLORS

PAGE TOP
} } } } } } } }'"' } ] })