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フルジップインタークーラーベスト&インタークーラーベスト2 インプレッション/酷暑を乗り切るための最適策

フルジップインタークーラーベスト&インタークーラーベスト2 インプレッション/酷暑を乗り切るための最適策

今年も酷暑が予想されており、日中のライドは常に熱中症のリスクをはらんでいる。分かってはいるが、自転車乗りとしては室内に閉じ籠ってはいられない。青空の下、入道雲を見ながら思いっきりペダルを回したい。しかし温暖化が進んだ今は、体を冷やす工夫が必要になる。その急先鋒、ビオレーサーのインタークーラーを試す。

平年より2度も暑かった6月

梅雨にもかかわらず、6月の全国平均気温は平年より2.34℃も高かった。これは、気象庁が1898年に統計を開始してから最も高いデータだという。気象庁は、「今年の夏は記録的な暑さになることが予想される。熱中症への対策を」と呼びかけている。

温暖化の原因は、二酸化炭素を主とする温室効果ガスだと考えられており、各国、各分野で必死に対策が練られている。影響をモロに受けているのが我々自転車乗りだ。運動量が非常に多いうえ、走行中は常に熱風にさらされ、直射日光に加えアスファルトからの照り返しもある。吐く息しか二酸化炭素出してないのに。と文句を言っても始まらない。エアコンの効いた室内でローラーという手もあるが、自転車は実走こそが楽しい。

熱中症を防ぐには、1に水分補給、2に体の冷却である。冷却とは要するに、身体に水をかけて強制的に冷やすのだ。自転車は走行中、常に風に当たっているので、水の気化熱による冷却効果は大きい。

かける場所は、首や面積が大きい背中が推奨される。しかし、肌にかけるだけではすぐに乾いてしまう。ウエアに水をかけると、生地が水を保持してくれるため冷却効果は高まるが、近年のウエアは速乾性が高く、水分を素早く外部に排出してしまう。水をかけても冷却効果が長続きしないのだ。

 

体を冷やすスペシャリスト

オランダのINUTEQ社は、パーソナル冷却技術と冷却製品の開発・製造で世界をリードする企業。様々な素材を使って冷却ベストや冷却シャツ、冷却キャップなどのアクセサリーを開発している。

そんなINUTEQ社とビオレーサーが共同で開発した冷却インナーベストが、温暖化進むこの日本で話題を呼んでいる。モデルは2種。「インタークーラーベスト2」(14,900円)は、INUTEQ社のPVAという素材を背中一面に使用したもの。2016年にカタールで開催されたロード世界選手権タイムトライアルで、金メダルを獲得したトニー・マルティンが着用していたものだ。

背中には氷を入れられるアイスポケットがあり、冷却効果をさらに高めることができる。

 

PVA以外の生地は通気性の高いメッシュ素材。

 

もう一つは「フルジップインタークーラーベスト」(14,900円)。背中に加え、胸部にもPVAを配置したもので、心臓に近い箇所を冷却することで深部体温の上昇を抑制する。PVAは伸縮性に乏しいのが欠点だが、フルジップとしたことで容易な脱着を可能とした。

前面にもPVA素材を配し、さらなる冷却効果を実現した。インタークーラーベスト2同様、首の後ろにはアイスポケットが設けられる。

 

フルジップとしたことで、広範囲にPVAを使いながらも、簡単に脱ぎ着ができる。PVA以外の箇所にはメッシュ素材を用いてフィット感と通気性を高めている。

 

気化熱を増やす素材

インタークーラーの核となるPVA素材がなにをしているのかというと、「水分をよく吸収し、よく蒸発させる」である。通常のウエアより水分を保持する量が多いため、冷却効果が数時間も持続する。PVAが濡れた状態で空気に触れると、高い蒸発作用により冷却効果を発揮、着ている人の体を冷やす。メカニズムは至極単純であり、ハイテクや魔法が使われているわけではない。

フルジップインタークーラーベストから試す。使い方は、製品を水に1~2分浸し、軽く絞って着るだけ。濡らした状態で持つとずっしり感がある。要するにそれだけ水を含んでいるということだが、着るとさほど気にならない。ちなみにインナーは必要ない。

PVAは伸縮性が低いため、サイズは慎重に選ぶ必要があるが、カッティングが適切でメッシュ部分の伸縮性が高いため、ジャージと同じサイズを選べばおそらく問題ない。PVA生地は背中に張り付くことなく、前傾姿勢も邪魔せず、いつも通りのライドが可能だ。着心地に関しては意外なほど存在感がない。

着用感は、まさに湿らせたジャージを着たときのそれ。ひんやりとした感触は炎天下でも清涼感を持続させる。それだけならジャージに水をかけただけでも得られるが、このインタークーラーのメリットは、それが長時間持続することだ。

 

「夏特有の疲労」が小さい

当日は最高気温35℃。PVAの生地は通気性がそれほど高くないが、走っていると走行風によって気化熱が奪われていくため「湿らせたジャージを着たときの感覚」がずっと続く。PVAの資料によると冷却作用は最大4時間持続するというが、通常のライドなら発汗を考慮しても2時間ほどだと感じた。しかし、背中と胸のPVA生地にボトル2プッシュほどの水をかけて給水してやればライド中効果は続く。

ジャージにバシャバシャと水をかけても、そのほとんどが路面に落ちてしまうため、体を冷やす効果は一瞬だが、インタークーラーは最小限の給水で水冷効果を持続させてくれる。ただし、走行風の風速が低くなる登坂はPVAが苦手とする状況だ。ある程度の速度を出しているほうがインタークーラーの効果は大きくなるだろう。

酷暑下のライドでは、「パワーを出したことによる筋肉疲労」ではなく、「暑さによる自律神経の乱れ、内臓疲労によるずっしりとした疲れ」を感じるものだ。夏は体温の上昇を抑えるためにエネルギーを使ううえ、大量の発汗によって水分やミネラル分が不足しやすくなるためだ。しかし、インタークーラーを使うとそんな「夏特有の疲労」が小さいように感じた。最高気温35℃のなか、昼間に5時間ほどのライドをしたが、発汗量が明らかに少なく、盛夏ではありえないほど最後まで踏み続けられた。デメリットは、肌触りが多少ゴワつくことと、襟が低いジャージを組み合わせると襟部分が見えてしまうことくらい。

 

ヒルクライムにも使える

インタークーラーベスト2も使ってみた。こちらはPVAが背面のみで、前面はメッシュになっているうえに胸部が大きく空いているので、フィット感は通常のインナーとさほど変わらない。よく見ると、肌に接するPVA生地の表面には、小さな穴が大量に穿たれた肌触りのいい薄膜が貼り付けられている。これが「濡らしても背中に張り付かず、肌触りがいい」理由だろう。スペシャリストであるINUTEQ社の知見が活きている部分だ。

気化熱による冷却効果は前後両面にPVA生地が配されるフルジップインタークーラーベストのほうが高いだろうが、ライド中に直射日光に炙られる背中がPVAになっている効果は大きく、走行中はずっと背中がひんやりしたまま。

前面は通気性が高いので、走行風が当たらなくなるヒルクライムでも、通常のインナーとさほど変わらない感覚で走ることができる。灼熱のロングライドやレースには冷却効果の高いフルジップインタークーラーベストを、フィット感を重視する人や長時間のヒルクライムをする人はインタークーラーベスト2がいいだろう。

そもそも、高温時や運動時に人間が汗をかく理由は、汗を蒸発させることで気化熱を奪って体温を調節するためだ。汗の気化熱前提で人間の体は成り立っている。しかし、それでも熱中症で倒れる人は増えている。地球の温暖化に人間の体の進化が追い付いていないのかもしれない。エアコンを背負って走るわけにはいかないから、気化熱による冷却作用を最大限に発揮させられるインタークーラーベストが、温暖化進む今の夏を楽しく走り切る最適策だろう。

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