深部体温計COREを用いてインタークーラーベストの効果を検証する
前回の記事ではフルジップインタークーラーベストとインタークーラーベスト2のインプレッションをお届けしたが、今回はその効果を数値化することに挑戦する。CORE(コア)という深部体温計をお借りして、インタークーラーベストの有無によってライド中の深部体温がどう変化するのかを測定した。
※今回の検証にあたり、株式会社メニーズ様より深部体温計COREをご提供いただきました。この場を借りて厚く御礼申し上げます。
深部体温とは?COREとは?
「体温」とは文字通り体の温度のことだが、人間の体は場所によって温度が違う。手脚などの末端や皮膚の温度は皮膚温と呼ばれ、筋肉や内蔵のように熱が生じにくく熱の発散もしやすいため比較的低めである。また、気温や肌の状態などの影響を受けやすいので安定していない。一方、脳や内蔵の温度は深部体温と呼ばれ、臓器の働きを保つために安定している。
生体情報として有益なのはもちろん“真の体温”である深部体温だが、これまでは食道や直腸にセンサーを挿入する必要があった。それには手間もコストも身体的負担もかかる(センサーを飲み込むなど)ため、腕や胸などにセンサーを付けて深部体温を推定する深部体温計が話題を集めている。
その急先鋒がプロチームの使用率も高いCORE(コア)である。小さなセンサーを胸に付けるだけで、専用アプリで深部体温などのデータを解析することが可能で、ガーミン、アップルウォッチ、スント、ワフーなどのデバイスにも対応している。
しかし、なぜ肌の表面にセンサーを付けただけで深部体温が分かるのか。COREの担当者に話を聞いたところ、このセンサーが計測しているのは温度そのものではなく、熱の「移動」なのだという。
体の核心部分の深部体温は、生体組織を経て、皮膚の表面へと達する。多くの場合、皮膚表面の温度は深部体温より低くなる。このCOREのセンサーは、皮膚表面からセンサーへ放出される熱の移動を計測し、複雑なアルゴリズムを経て、「皮膚表面温度が深部体温よりどれだけ冷えたか」を推定しているのだという。実際に飲み込むタイプのセンサー(深部体温を直接計測するもの)と、このCOREセンサーを同時に計測したところ、わずかな誤差はあるものの、実用上は問題ない精度に達していたという(詳しくはこのページを参照のこと)。

実験方法と結果
そのCOREを用いてインタークーラーベストの有無を比較した。実験当日は最高気温が35度とされ、外に出るのが憚られる気温だったが、実験のために14時半頃に走り始めた。まず、中強度で1時間ほど走り、体を運動状態に馴らしておく。
15分ほどの休憩を取り、息を整えたあと、純粋にインタークーラーベストの有無のみを比較するために背中と胸部に水をかけ、軽いアップダウンを含む15分ほどのコースを走行した。本当は長時間のライドで検証をすべきだが、時間経過による気温の変化が大きくなってしまうと考え、あえて短いライドで比較した。

結果①(インタークーラーベストなし、通常のウエアに水をかけた状態)
結果①(インタークーラーベストなし、通常のウエアに水をかけた状態)が上のグラフ。走り始め(15:45頃)の深部体温は38.7度ほど。ライド開始直後は深部体温がゆるやかに下降し、数分後に38.2度ほどで一定となった。このときの強度は上りで250W前後、平坦路で120W前後。サイクリングペースである。
15分ほどの休憩を挟み、水を含ませたフルジップインタークーラーベストを着用し、同じコースを同じ強度で走行した。なお、誤差を小さくするため、実験中は室内には入らず、冷たい飲み物も摂取していない。

結果②(インタークーラーベストあり)
このグラフが結果②(インタークーラーベストあり)。インタークーラーベスト着用直後から深部体温が下降。ライド開始後、37.9度ほどまで下がった。その後、運動によってゆるやかに上昇したが、同じコースを同じように走ったにもかかわらず、平均して0.4度ほど深部体温が低かった。
インタークーラーベストの効果
どちらのデータも、運動直後に深部体温が低下しており、「運動=体温上昇」という感覚とは逆の結果となっているが、調べたところ、筋肉の活動によって静脈が増大し、体表面で冷却された血液が体内深部へ流入することによるものだろう、という考察があった(日本体育協会 スポーツ科学委員会 「運動時における体温の動的様相」)。
一回目のライド(インタークーラーベストなし)でも体に水をかけて走行しているが、体表面に水分が残らず、すぐに乾いてしまうため冷却効果が持続しない。一方、二回目のライドではインタークーラーが水分を保持してくれるため、走行風によって水分が蒸発を続け、気化熱によって体が冷やされたのだと考えられる。なお、当日の現地の気温はテスト中は32.5度と変化なし。風向きや風速も変わらず。湿度は61~64%と平均レベルで安定しており、比較には好条件だったといえる。

これが今回の実験を通したデータ。15:45頃に一回目のライド(インタークーラーベストなし)を始め、16:00頃に終了。16:10頃にインタークーラーベストを着用し、16:15頃に二回目のライド(インタークーラーベストあり)を始めて、16:30頃に終了している。深部体温の変化は明らかだ。
あくまで簡易的な実験ではあったが、インタークーラーベストの効果を実証できた。もちろん、着用感が気になる人もいるだろうし、水を含ませているので重量増をデメリットとして受け取る人もいると思う。また、水分を蒸発させることによる気化熱で冷却するため、湿度が高い環境(水分が蒸発しにくい)や、走行風が当たりにくくなる環境(低速のヒルクライムなど)では、冷却効果は低くなるはずだ。しかし、体温を低下させて熱中症の防止やパフォーマンスの維持に効果的であることは確かなようだ。


