ライドロードレースエアロスーツ インプレッション/ワンピース普及の旗手
ロードレース用のワンピースエアロスーツながら2万1000円という、ビオレーサーとしては信じがたい低価格で登場した新作、「ライド」。果たしてその性能は?
ワンピースの今と昔
「これからの自転車用ウエアの進化の方向性の一つがワンピースだ」と小声で主張し始めて数年が経つ。腰回りで生地がバタつかなくなるため空力性能の向上も見込めるが、ビブがなくなるので上半身のフィッティングが劇的によくなることが最大のメリットだと思う。
が、一向に広まる気配がない。<ワンピース=決戦用、タイムトライアル用、ガチ勢専用>というイメージが色濃く残る。確かに、かつてのワンピースは上下が完全に繋がっており、「肩の関節外さないと無理です」というレベルにタイトで着用が困難なものも多かったが、昨今の新世代万能ワンピースは違う。
上下一体のワンピースながら、前パネルとパンツの腹部が分離しているため、普通のジャージのように脱着が容易で、前を開放して走ることもできる。表現矛盾な気もするが、「セパレート型ワンピース」とも呼ばれている。
とはいえ、上下を自由に組み合わせることができない、好みのデザインの製品がない、高価で手が出ない、などのハードルは存在する。最後の価格に関しては、昨今ジャージが2.5万パンツが3万などという製品が珍しくない今、上下の合計価格を考えれば決してワンピースだけが高価というわけではないのだが、ワンピースをラインナップするウエアメーカーはパフォーマンス志向であることが多く、高価格帯が多いのは確かだ。
ビオレーサーのエアロスーツが身近に
そんな折、パフォーマンス志向ブランドの最右翼であるビオレーサーが、ライドという名の新作ワンピースをリリースした。価格はなんと2万1000円。トップモデル、エピックの半額以下。いきなりどうしたんですか?と言いたくなるほどの価格である。
実はこのライド、ビオレーサージャパンが「あくまで競技志向だが、可能な限りコストを抑え、初めてビオレーサーを手にする人、初めてエアロスーツを着る人のハードルを下げる」をコンセプトに掲げ、本国に新規開発を打診したもの。
本国はそれに応えてくれたのだが、開発は難航した。当初のサンプルはフィッティングがよくなく、「もっとトップスをタイトにしてくれ」「ウエスト部分を締めてくれ」と、パフォーマンスを維持すべく何度も本国とやりとりをして作り直した。結局、本国が提案してきた試作品よりトップスのフィッティングを1.5サイズほど下げ、日本人に最適化した。

前面と背面はメッシュ生地。

価格を抑えるため、袖はエアストライプではない。アームカバーやグラフェンジャージの袖部分と同じ素材で、UPF50。

バックポケットは2つ。

パッドはアイコンと同じスムーズパッド。

何にでも合わせやすいアイスグレー(左)、都会的な迷彩であるグレー(中)、洗練されたイメージのマスタード(右)という3種類のデザインが用意される。いずれも上下で色が切り替えられており、「いかにもエアロ」なデザインにはなっておらずルックス的にもハードルが低い。※すでに完売したカラー・サイズもあるが、7月下旬に再入荷する予定。
いざ、ライドでライドへ
世の中に出回っている製品の価格とパフォーマンスは基本的に比例するものだから、上位モデルとの差はある。上位モデルのように極上の伸縮性があるわけではないので(特にビブの裾部分はやや硬さを感じる)、着用時に体にしっかりとフィットさせる必要はあるが、一度着てしまえばカッティングの優秀さに助けられてエアロスーツらしいフィット感がある。万人に合うというフィッティングではなく、あくまで競技志向でタイトなのもビオレーサーらしい。
上位モデルより首の付け根部分にシワが出来やすい気もするが、ダボつきやすい肩~脇部分の生地は体にちゃんと追従してくれている。日本専用カッティングだけあって、前傾姿勢でもお腹周りが余りにくいのもいい。
ビブには、上位モデルであるアイコンシリーズと同じスムーズパッドが付く。このパッド、尖がった設計ではないぶん、万人に合いやすい仕立てになっており、快適性とペダリング時の体への追従性のバランスがいい。走り始めた瞬間に意識から存在が消えるパッドである。
ビブの縫い目が肌に当たって気になるという人もいるかもしれないが、5時間程度のライドではストレスにはならなかった。しかも、つまらない計算をすればこれはジャージ1万円、ビブ1万円のウエアとも言える。それを考えれば望外の出来だ。2万円強とはいえ、OEM工場の既製ウエアにデザインを乗せただけの即席ワンピースではなく、ビオレーサーが知見を活かして自社開発した「本気のウエア」である。
なにより、冒頭に述べたワンピースのメリットが100%享受できるのがいい。ビブがなくなることで、ジャージとビブが別々に動いてずれる感覚から解放されるので、上半身のフィット感が大幅によくなる。ライディングフォームを妨げるものが一つ消えた感じだ。ジャージの裾がバタついたりずり上がったりという心配もなくなる。
ワンピースには「空気抵抗を減らすためのもの」というイメージがあるが、これからは「よりよいフィット感を得るためのもの」にもなるだろう。ビオレーサーがライドを発売したことで、その流れは加速するはずだ。