「UCI GRANFONDO TEAM JAPAN」ジャージ デザイナーインタビュー/デザインに込められた想い
その国を代表するナショナルジャージは、基本的には国旗をモチーフにしたものが多い。しかし日本のそれは、世界196カ国のなかでも最もデザインが難しい部類に属するはずだ。日の丸や日本の伝統的な和柄を使いながら、サイクルウエアとして完成度の高いデザインとなった「UCI GRANFONDO TEAM JAPAN」ジャージ。デザインを手掛けた山口直樹氏に話を聞いた。
日の丸は難しい
白地に大きな赤丸という日本の国旗は「日の丸」と呼ばれる。聖徳太子が遣隋使に託した文書で日本を“日出づる国”と表現して以来、太陽が昇ることを重視する文化が根付き、「清浄・純白・平和を意味する白色に、太陽を表す赤い日の丸」が日本を象徴する旗となった。
国旗としては素晴らしいデザインだと思うが、これをモチーフとしてウエアをデザインするのは難しいだろう。これ以上ないほどシンプルなデザインが故に、ストレートに解釈するとお腹に大きな赤丸がドーンという「日の丸弁当人間」になってしまう。
自転車競技に限らず、日本ナショナルチームのウエアデザイナー達は、試行錯誤を続けてきた。あえて日の丸を採用せず、紅白のラインで構成するというのが定番のようだが、「日の丸弁当」にチャレンジしたケースもあった。サッカーのように、国旗とは関係のないシンボルカラーを用いる例もある。いずれも、「日の丸という国旗としては秀逸なデザインをスポーツ用ウエアに用いる難しさ」を感じさせる事例である。
デザインのコンセプト
しかし、今回発表されたUCIグランフォンド日本ナショナルジャージは、日の丸を使ったウエアデザインの成功例なのではないかと思う。このデザインを手掛けたのは、広告デザイナーであり、コアなサイクリストでもある山口直樹氏だ。
「『日本人としての誇りを纏って走る』というテーマを掲げてデザインを行いました。また、UCIグランフォンドという国際的な舞台において『日本チームとしての存在感を出せる』ことも意識しました。大集団のなかでも、パッと見ただけで日本チームだとすぐ分かるようなデザインですね」
このUCIグランフォンド日本ナショナルジャージは、国旗の日の丸をストレートにウエアに落とし込んだものになっている。山口さんはこう語る。
「これまでの日本ナショナルジャージには様々なデザインがありましたが、そのなかでも少し変わって見えるような、このジャージならではのアイデンティティを持たせたいと考えました。前面は、胸のところに日の丸を配しました。『選手たちが胸に秘めた熱い想い』をイメージしたものです」
その結果、「心臓がある左胸部分に日の丸を配する」という、日本の国旗をストレートに取り入れつつ、スタイリッシュなデザインとなった。
「日の丸の下にはJAPANの文字があるんですが、2つのAを変形させて裾野の広い二等辺三角形とし、富士山や蝦夷富士と呼ばれる羊蹄山を想起させるようなデザインとしました。その周辺に配した金色の雲は、日本画や浮世絵などに用いられた絵柄を落とし込んだものです」
この雲の形は、浮世絵、屏風絵、巻物などの日本画に用いられていた「すやり霞」と呼ばれるものだ。日本を象徴する山があり、伝統的な雲があり、胸には昇る太陽がある。このジャージの前面には、美しい日本の風景が描かれているのである。
細部のこだわり
「雲のディティールにも日本の伝統模様を使いました。それぞれの雲で違う模様になっているんです。例えば、JAPANの文字の下の雲は青海波という波の模様です。これは『未来永劫へと続く幸せへの願い』という意味があります。麻の葉模様には『健やかな成長と生命力』『魔除け』という意味があります。『それらを身に纏うことで、サイクリストたちが安全にいい走りができるように』という願いを込めました。ゲン担ぎですね。その模様の粗密によって、雲に濃淡ができて、遠近感が出るという効果もあります」

「このジャージの一番大きなビジュアルアイデンティティが、背中のRIDE FROM JAPAN. REACH THE WORLD.というメッセージです。これは日本の祭の法被(はっぴ)をイメージしたものです」
法被の背中には、背紋と呼ばれる一塊の文字がデザインとして入っている。「祭」「祭禮」「神輿」「睦」などの文字も多いが、それぞれの地域の地名を入れることも多い。法被は日本古来より伝わるチームウエアの一種なのだ。その文化を日本ナショナルジャージに取り入れるというアイディアには舌を巻く。
「法被に背紋が入ることで、団結感が強くなり、高揚感が高まりますよね。それをプロトンの中でも感じられるように、という思いを込めました」

「ベースカラーが白なので、視覚的に締まる部分が欲しいと思い、ビブは濃紺にしました。日本の海、ジャパンブルー、サムライブルーをイメージしたものです。上から下まで白一色だと、どうしても緩慢なイメージになってしまいますから。ビブの裾部分にも浮世絵のイメージを使って、グラデーションのラインを入れています」

ロードバイクという欧米由来の文化を、日本の伝統と結び付けるのは難しい。何の工夫もなしに、日の丸や伝統文様や浮世絵を張り付けただけでは、空港の土産物屋で海外観光客向けに売っているTシャツのような、見るも無残なウエアになってしまう(実際、そういうウエアはいくつも存在した)。しかし、このウエアは違う。日本らしさとレース用ウエアに必要なスピード感・スタイリッシュさを違和感なく融合させている。見事なデザインだと思う。
最後に山口さんはこう仰った。
「一般のサイクリストの方も、これを着て『自分は日本のサイクリストなんだ』という誇りを持って走っていただけたらと思います」


