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HOKKAIDO EVENTS ベン・カー氏インタビュー(後編)/地方を巻き込む上昇スパイラル

HOKKAIDO EVENTS ベン・カー氏インタビュー(後編)/地方を巻き込む上昇スパイラル

北海道の地に魅せられて移住をし、ニセコ周辺の観光産業に関わることになったベン・カー氏。今や日本で有数の人気レースイベントとなったニセコクラシックを実現させたコアメンバーの一人だ。2016年にはUCIグランフォンドワールドシリーズの1戦に組み込まれ、2026年にはついに世界王者を決める決勝大会として開催されることが決定した。「自転車×地方創生」をテーマにしたインタビュー企画の第二弾は、ベン・カー氏にニセコクラシックの歴史と成長、北海道における自転車の重要性を聞く。

(前編はこちら

2026年には決勝大会へ

グランフォンドワールドシリーズの予選大会に組み込まれたニセコクラシックだが、次なるステップはもちろんその頂点である決勝大会になることだ。

「2016年頃にUCIと話をしていたら、『2020年の決勝大会はニセコでやりたい』という話をもらったんです。UCIはかなり前向きだったんですが、当時は東京オリンピックの年だったこともあって行政、警察、自転車競技連盟の協力を得ることが難しく、実現はなりませんでした。次に空いている年が2030年だということで、『だいぶ先になっちゃうな』と思ってたんです」

しかし2024年、事態は急転する。

「去年のことです。UCIから、『2026年に予定していたカナダが諸事情によって開催できなくなった。ニセコでできないだろうか?』という打診があったんです。2030年だと思っていたので驚きましたが、できるだけ早くニセコで決勝大会を開催したいと思っていたので、急いで周辺の町村、JCFなどと連絡を取り合い、2026年に決定したんです。かなりギリギリなタイミングでした」

急遽決まった来年の決勝大会。当然、ローカルな地方予選とは大会の位置付けも格付けも異なる。

「今年のニセコクラシックの参加人数は約1500人でした。おそらく来年の決勝では2000人ほどに増えます。しかも、各国で行われる予選を突破したライダーしか参加できないので、海外選手の割合が多くなります。おそらく6~7割は海外からの参加者になるでしょう。皆さんお友達やご家族と一誌に来日されるはずなので、かなりの人数が一週間ほどニセコに滞在することになります」

高岡亮寛選手が日本人初の世界チャンピオン(45-49歳/男子)に輝いた2024年のデンマーク・オールボー大会には、74か国から2500人以上が参加している。

「そして、日本人選手にとってもかけがえのない体験になるとでしょう。決勝は参加者の半数以上が予選を勝ち抜いてきたハイレベルな海外選手になるので、まるで海外のレースを走っているかのような経験をしていただけると思うんです」

決勝大会化の宣伝効果

日本でレベルの高いレースが開催され、地元に落ちる金額も増えて、めでたしめでたし……というだけではない。ベンさんはもっと遠く、ニセコの未来を見ている。

「私が期待しているのは、2026年の決勝大会を通して、『夏のニセコの魅力』が世界に伝わるのではないかということです。冬のニセコが最高だということはみなさんもうご存じなんです。ニセコのパウダースノーは世界的に有名ですからね。でも、夏の魅力はいまいち伝わっていない」

「北海道には交通量が少なく伸び伸び走れるいい道がたくさんあります。ヨーロッパなどと比べると、日本の舗装路はコンディションがよく綺麗ですし、最高のグラベルもたくさんあります。夏は比較的涼しく、自転車に乗って美味しいものを食べて温泉に入って、北海道ならではのゆっくりと流れる時間を楽しめます。北海道でしかできないライド体験があるんですよ」

「それは一度来てもらえれば分かっていただけると思うんです。だから来年の8月のニセコクラシックに来てくれた人たちが、夏の北海道の魅力に気付いてくれて、それが口コミで広がって夏の観光につながるのではないかなと。その宣伝効果は大きいと思いますね」

夏の北海道を救え

ここで本記事のテーマである地方創生が出てくる。夏の北海道に人がたくさん来てくれるようになると、それにまつわる諸問題が解決され、北海道という地に上昇気流が吹くのではないか、とベンさんは考えている。

昨今、ヒステリックに問題を煽ることが大好きな報道番組などでは、ニセコのオーバーツーリズム問題が取り沙汰されている。宿泊費が高い。食事代が高い。予約が取れない……。

「3000円もするラーメンが不味かった、とかね(笑)。でもニセコの真の問題は、冬と夏のアンバランスだと思います。冬は大忙しなので、そのぶんいろんなものの価格が上がってしまっています。予約も取りづらい。だから北海道の冬の観光はこれ以上伸びないと思います。開発の制限も厳しくなっていますし。一方、夏になると観光施設の稼働率がガクンと落ちるので、従業員は減らさなければいけません。各観光施設は、スタッフに冬前に来てもらって、トレーニングして、仕事を覚えた頃には帰ってもらわなければならないという、よくない流れの中にあるんです。それを払拭するには、夏の稼働率を上げて年間を通してちゃんと回る仕組みを作ることが必要だと思うんです」

それには「自転車」というアクティビティが有効に作用する。

「その通り。ロードレースだけではないですよ。北海道はサイクリングも最高です。ニセコクラシックも去年からファンライドイベントにも力を入れています。MTBも盛り上がってきていますし、もちろんニセコグラベルもあります。温泉も食べ物も、ライド体験をより素晴らしいものにしてくれます」

「サイクリストや観光客だけでなく、地元にもメリットがあります。先述した『北海道の夏と冬のギャップ』が埋まれば、住民の方々の商売にもつながるし、若い人たちが『北海道は一年を通じて仕事があって生活もしやすくて、人生を楽しめる場所』と移住してきてくれるかもしれない。そうして若い世代のエネルギーを呼ぶことにもつながると思うんです。自転車の盛り上がりが、地域にとっての重要なステップになります。そういう意味で、北海道にとって自転車は非常に大切な存在なんです」

 

正直に言って、我々自転車乗りは、(一部の人格者を除いて)「ぶっちゃけ楽しく走れればそれでいい」というマインドだろう。綺麗な景色のなかを走って、レースに出て、ドキドキできてみんなでワイワイできれば、もうそれで満足だ。キレイゴト抜きでいけば、自分とは無縁の田舎がどうなろうが、地方創生がどうなろうが、関係ないといえば関係ない。

しかし、地方に出かけていってそこで自転車を楽しむことが自らの人生の大切な1ページになり、それが日本の自転車の楽しみ方を多様にし、同時にその地方が上昇スパイラルに入るのであれば、それほど嬉しいことはない、と思えるくらいには「いい人」たちであろう。

パナレーサー・大和さんの記事でも触れた「三方よしの世界」が、ここにも存在するかもしれない。

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