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ビオレーサーのCEOに聞く「“いいウエア”って、何ですか?」
機材の進化は分かりやすい。軽さ、空力、剛性、快適性、ツール・ド・フランス総合優勝、世界選制覇……。メーカー間の思想の違いも明確で、個性が表出しやすい。
ウエアはどうだろう。モデルによって通気性やフィット感や空力性能に違いはあるが、数値化しにくく、性能差が伝わりにくく、結局シルエットとグラフィックで良し悪しが判断されてしまう世界だ。パリ五輪でレムコ・エヴェネプールが勝ったことは多くの人が知っているし、彼のバイクがスペシャライズドだったことも周知の事実だが、彼が着ていたウエアがどこのメーカーなのか即答できる人は少ないだろう(ビオレーサーだ!)。
しかし、ウエアの性能差は厳然として存在し、しかも意外なほど大きい。もちろん価格帯にもよるが、ダメなものは今もダメ。生地のクオリティが低くライディングフォームをとると常にどこかが突っ張って、筋肉で生地のテンションに逆らい続けなければならなず、ストレスになるしエネルギーも無駄になる。通気性が悪く暑い日でも体温が下がりにくい。パッドは尻の下で存在感を主張し続ける。この性能差はタイムや結果やパフォーマンスに確実に影響を与える。
それなのに、ウエアの作り手の話は寡聞にしてほとんど聞かない。ビオレーサー五輪制覇を機に、ビオレーサーの中の人に「いいウエアってなんですか?」と質問をぶつけてみた。答えてくれたのは、なんとビオレーサーのCEO、ダニー・シーガーズ氏である。
ビオレーサーが考える「いいウエア」とは?
Q1:自転車用ウエアにはフィット感、通気性、快適性、耐久性、空力性能など、様々な性能が求められますが、ビオレーサーはどの性能を最重視していますか?その理由を教えてください。
A:ビオレーサーが考える「いいウエア」とは、ライディングポジションに完璧にフィットし、パフォーマンスを向上させ、同時に気候条件に応じて最大限の快適さを提供する“繭”のような役割を果たすものです。同時に、空力と軽量化も当社の優先事項。つまり、「いいウエア」とは、フィット感・パフォーマンス・快適性が完璧に融合されたものです。ビオレーサーの目標は、そんなウエアによって最高のパフォーマンスを発揮させ、あなたをより速くすることです。
その理念に則って開発した製品に、最近日本市場向けにリリースしたフルブリーズがあります。日本のアスリートの体型に合わせて微調整し、日本の非常に過酷な気候条件にも対応できるように通気性を最大レベルまで高めました。
空力性能に優れたウエアを開発する際のこだわりは?
Q2:ビオレーサーのウエアは空力性能を重視しているイメージがありますが、空力性能に関するこだわりを教えてください。
A:エアロ系のウエアは、他社を含めて見た目は同じように見えますが、実際の性能の違いは非常に大きいんです。多くの競合他社はエアロファブリック(空力性能に優れていると言われる生地)を使用しますが、本当に重要なのはエアロファブリックを「どう使うか」なんです。「ただエアロファブリックを使うだけ」では不十分。それを、アスリートの身体要件とライディングフォームに合わせて最適化することが大切なんです。どの部分に、どのような方向で、どれだけ使うか。その方法こそがビオレーサーのこだわりであり、プロ選手がビオレーサーのウエアで走りたいと言ってくれる理由なんです。
20年間でウエアはどう進化した?今後の進化の方向性は?
Q3:20年前のウエアと現在のウエアでは、どの性能が最も進化しましたか?また、今後の進化の方向性は?
A:過去 20 年間でサイクルウエアは革命を遂げてきました。生地は伸縮性のあるものに進化し、フィット感と快適性が大幅に進化しました。長い間、サイクルウエアの焦点は「いかに体温を調節するか」でしたが、この20~30年で空力性能が大きく進歩しましたね。
ウエアの進化は、空力最適化と体温調節がポイントになることは変わりないと思います。これらは現在、ライダーのパフォーマンスに最も影響を与えている要素だからです。それに加えて、「ライダーの保護」が次の進化となる可能性があります。もちろんUCIルールとの兼ね合いもありますが、遅かれ早かれ「安全性」に関してはウエア界で革命が起きるでしょう。ちなみに、当社はすでに安全性に関する取り組みを始めています。
理想のウエアを作るなら?
Q4:ライダーの保護ですか。興味深いですね。では、今「コストはいくらかけてもいいし、どんな素材を使ってもいいから、理想のウエアを作ってくれ」と言われたら、どんなウエアを作りますか?
A:おそらく、次世代のナノテクノロジーを採用した高機能生地を使用し、空気抵抗と重量を大幅に削減します。また、温度変化に応じて変化する素材を組み込み、暑い環境では涼しく、寒い環境では暖かさを提供できるようにするでしょう。完全にシームレスなデザインとし、肌との擦れをなくし、空気抵抗をさらに低減します。また、形状変化素材を採用することで、衝突エネルギーの衝撃の一部を吸収して分散させ、ライダーの体を保護する機能を加えるでしょうね。
トレンドとユーザーのニーズの変化
Q5:サイクルウエアのデザインや機能に関するトレンドやユーザーのニーズは、この数年間でどのように変化してきましたか?それに対してビオレーサーはどのように対応していますか?
A:ユーザーは常にパフォーマンスを向上させるギアを求めており、特に空気抵抗と軽量性を重視しています。ビオレーサーは風洞実験を駆使してウエアの空気力学的特性を解析、そこに過去30年間積み重ねてきたすべてのプロアスリートからのフィードバックも加え、「スピードウエアコンセプト」などの製品に反映しています。
また、近年は快適性とフィット感の需要も高まっています。長時間のライドで疲労を軽減するウエアが求められているんです。ビオレーサーは高度な縫製技術と伸縮性のある素材を採用して第二の皮膚のようなフィット感を実現し、擦れを軽減して快適性を高めています。また、シームレスなレッググリッパーや、圧力マッピング技術を使用して設計されたパッドなど、細部の作り込みも疎かにしていません。
日本のユーザーへのメッセージ
Q6:最後に、日本のビオレーサーユーザーに向けて、メッセージがあればぜひ。
A:ビオレーサーはベルギーのブランドですが、日本のサイクリストの独自のニーズと好みに合わせてカスタマイズしたウエアを提供しています。日本のサイクリストのためにウエアを作っているということを誇りに思っています。ぜひビオレーサーのウエアで、快適にライドを楽しんでください。私たちと一緒に、最高のパフォーマンスを達成しましょう。