パナレーサー代表・大和竜一氏インタビュー(後編)/目指すは「三方よしの世界」
アジリストシリーズを発表し、グラベルキングの新作をリリースし、イベントのサポートも積極的に行い……と、日本の老舗タイヤメーカーであるパナレーサーはここ数年、アクティブな動きを見せている。キーマンは大和竜一。2020年に同社の代表取締役社長に就任した人物である。「自転車×地方創生」をテーマに大和氏にインタビューを行い、メーカーとして、イベントのサポーターとして目指す未来を聞いた。
なぜタイヤメーカーがイベントに力を入れるのか
ロードタイヤだけでなく、グラベルキングも一新したパナレーサー。もともとグラベル用タイヤのパイオニアだったが、他社がグラベル用タイヤに力を入れ始めたことで、競争は激化してきていた。
「だからグラベルタイヤもテコ入れをし、一新しました。おかげ様でメイン市場である海外で順調に売れています。今度は国内のグラベル市場を広げていく必要があると考えて、今はイベントに力を入れています」

そこで、今回の記事のテーマである「自転車×地方創生」である。
昨今のパナレーサーは、ニセコグラベルをはじめ、富士グラベル、すくもグラベルまんぷくライド、丹波サイクルデイズと、日本各地のイベントへのサポートを積極的に行うようになった。2025年のグラベルクラシックやくらいも「supported by Panaracer」の冠が付くし、2025年9月28日(日)には「十勝グラベル supported by Panaracer」の開催が決まった。
「弊社とイベントとの関わり合いは、5年前のニセコグラベルから始まりました。若手社員が『ニセコグラベルに関わってはどうか』と提案してくれて、『ニセコだったら俺も行くよ』と視察に行ったことがきっかけで、サポートを始めました」
世界最大のグラベルレース、アンバウンドグラベルにはR&Dを兼ねてパナレーサーの社員数名が毎年参加、大和社長も走って本場のグラベルを体験している。前編のメイン写真はそのときのワンカットだ。また、この後編のメイン写真は、アンバウンドグラベル会場近くの一軒家を借りて社員一同で合宿をしている様子である。
「そんな活動を通じて、この日本でグラベルロードを根付かせるには、イベントを開催して『グラベルってこういう遊びなんだ』と知ってもらうことが重要だと気付いたんです。魅力的な場所でイベントをすることで、土地の魅力とグラベル遊びが融合して、今まで興味を持っていなかった人達に『グラベルって面白そうじゃん』と気付いてもらえることが重要だと」
この日本で「走る場所がない」と言われるグラベルロード。その未来は「いいイベントの存在」が鍵を握っている。

それは地方創生でもある
そこでホテル・旅館再生のノウハウが活きた。魅力をアピールし人を呼び込むことにかけてはお手の物である。ローカルな催しにすぎなかったイベントが、パナレーサーが関わることで魅力が増し、さらにSNSやメディアでも大きく取り上げられ、言ってみればメジャーデビューを遂げる。バイクメーカーやパーツメーカーも巻き込んで、その流れはどんどん大きくなっていった。
「そうこうしているうちに、いろんな自治体や地元の議員から『自転車イベントをやりたいと思っているのですが、手伝ってもらえませんか?』という依頼が来始め、日本各地でイベントをサポートすることになりました。今も、南会津、日光、桐生などと話をしています」
そうして、パナレーサーはイベント企画屋としての顔も持つことになった。

丹波サイクルデイズ

ニセコグラベル

ニセコグラベル

富士グラベル

すくもグラベルまんぷくライド
「そんな話をある政治家としていたら、『大和さん、それって地方創生ですよね』と言われたんです。確かにそうだな、と。国からしてみればこれは地方創生かもしれませんが、我々はお手伝いをしているその地域の『地域創生』をお手伝いしているとも言えると思います。イベントを開催することで、参加者が喜んでくれるだけでなく、メディアやYouTube、インフルエンサーなどの発信を通してイベントのレポートを目にした人が興味をもってくれる。そうすることで、その地域の魅力とグラベルの楽しさがどんどん広がっていく。だからうちの使命として、タイヤを売るだけではなく、イベントもやるべきなんだと」
タイヤメーカーの枠を超えて
「しかも、ただ協賛金を出してスポンサーになるだけでなく、イベントの運営に入り込んで一緒になって魅力あるイベントにしていきたいと思っています。そのほうがうちとしてもやりがいがあります」
もちろんそれにはお金がかかる。
「今年のニセコグラベルも、社員が3人ほど一週間近くニセコに滞在して、主催者と一緒になってイベントを運営しました。人件費や諸々の経費を考えれば結構な金額になります。でも、それによってグラベル文化が根付けば、タイヤが売れるようになり、うちとしては結果オーライです」
地方はイベントを通して魅力を発信し伝えることができる。ユーザーはイベントによってグラベルという遊びを満喫することができる。パナレーサーとしてはイベントを通じて製品を知ってもらい、売り上げにつなげることができる。うまくやれば、その三方よしが成り立つ。そして、その先にあるのは「グラベル文化の根付き」だ。製品だけでなく、市場を作る。文化を作る。パナレーサーはそういうフェーズに歩を進めたことになる。

2020年の就任から5年間、全力疾走で会社とグラベルの世界を変化させた大和社長。今後については。
「自転車って、乗ると楽しいものですよね。エコでもあるし、健康にもいい。悪いことがないんですよ。コンテンツとしてここまで優れたものはないと思います。地方創生にとってもメリットだらけ。自転車だと地域全体を回れるし、スピードが適度だから土地の魅力が伝わりやすい。言い換えれば、地域にとって、土地の魅力を発信しやすいと思います」
「グラベルバイクを持って行って、いい道を仲間と走って景色を楽しんで、その土地の美味しいものを食べる。そういう最高の体験を提供するポテンシャルを持った地方はまだたくさんあります。そんな楽しみ方を、これからもどんどん広めていきたい。そうすればうちのタイヤも売れるようになって収益につながります(笑)」
各地のホテルや温泉旅館の再生では、策を練り、その土地の魅力を伝え、お客さんを呼んだ。地方創生のプロだ。ソフトバンク時代はベンチャーキャピタリストとしてIT企業の成長に貢献した。ITのプロ。酒造会社の代表取締役だった時代は、無二の価値をアピールし、儲かる仕組みを作った。企業再生のプロである。
それらの経験が、今、パナレーサーの変化と、自転車を通じた地方創生に余すところなく活かされている。大和さんは、来るべくして自転車業界に来た人であり、なるべくしてパナレーサーの社長になったのだ。今後、パナレーサーと大和さんがどのような製品を作り、どのような動きをしていくのか。引き続き注目したい。


