宇都宮LUX 小坂 光さんインタビュー (後編)父から息子へ、祖父から孫へ
宇都宮市役所に努めるフルタイムワーカーでありながら、2度のシクロクロス全日本チャンピオンに輝いている小坂 光さん。選手生活の大半を、学業・仕事と両立させてきた異色のライダーでもある。2024年シーズンから、宇都宮LUXという個人チームを立ち上げ、新体制での活動を開始する。それを機に、ビオレーサーメディアでは小坂さんにインタビューを実施。これまでの自転車人生、お父さんのこと、息子のこと、今後について―― を語ってもらった。(main cut/kasukabevisionfilmz) ※前編はこちら
たった一人の新チーム
では、その宇都宮LUXという新チームについて。
「ヴェロリアン松山ではシクロクロスの契約はなかったので、自分としてはクラブチームに所属して、規模を縮小しつつもできる範囲でレースに参戦しようと考えていたんです。そんなとき、宇都宮ブリッツェンやジャパンカップを支援してくださっていた入江電器商会という宇都宮の会社の代表の方に『シクロクロスを頑張るのであれば応援しますよ』と言っていただき、宇都宮の他の会社の方に声をかけて有志の支援団体を立ち上げてくださったんです」
それが新チーム設立につながった。地元宇都宮の支援者が結束し、小坂 光という自転車選手をサポートする体制が整う。機材、ウエア、転戦に必要な資金のバックアップを受け、小坂さんは万全の体制でJCXシリーズを戦えることになった。
「特定のチームに所属していると、好きなものは選べません。でも、このタイミングで個人チームで活動することになったので、バイクもウエアも自分が本当に使いたいものを使おうと。バイクはずっと乗りたいと思っていたトレックのブーンを選びました」
宇都宮LUXのジャージはビオレーサーが製作を担当する。小坂さんからビオレーサー・ジャパンにオファーがあったのだ。
「選手時代にビオレーサーのウエアを使ったことがあったんです。そのとき、パッドの使い心地やフィット感、着心地が非常によくて、ずっと印象に残っていたんです。チームを立ち上げるにあたって、和田さん(ビオレーサー・ジャパン代表)に連絡をしました。すでに使わせてもらっていますが、やっぱりいいですね。特にパッドの出来が突出していると感じます。全体的なフィット感も他のメーカーと比較しても優れていますし、メインパネル、手首、裾など部位によって適材適所に素材を使い分けているので、滑りにくさ、快適性、フィット感など選手として求めている機能が満載されているという印象です」
「そういういい機材・ウエアが使えるのも、支援をしてくださっている方々の存在のおかげです。それがなければ、いちホビーレーサーとしてもっと小規模の活動になっていたでしょうね」
また全日本で戦いたい
ロードレース、MTBといろいろ経験されたが、あくまで軸足をシクロクロスに置く理由は?
「競技を始めたのがシクロクロスということもありますし、高校になって初めて参加したシクロクロスがすごく面白かったというのもあります。父親がシクロクロスで戦っていたのがレースを見た初めての記憶で、当時は自転車競技=シクロクロスと思ってましたから(笑)。また、シクロクロスは1時間という短時間で勝負がつく競技なので、仕事をしながらでもトレーニングを積めば戦えるということも大きいですね」
そもそも、小坂さんにとって自転車の楽しさとは?
「自分が頑張れば頑張ったぶんだけ結果に繋がり、自分の成長が感じられるところ。僕はレースから入っているので、戦って満足できる結果を残せたときに充実感を覚えます。周りの人が喜んでくれる姿を見ることもモチベーションになりますね。純粋に楽しむためにオフロードを走ることも好きですし、仲間と一緒にカフェライドをするのも好きなんですが。今後は、フルタイムで働きながら、夏はロードレース、冬場はシクロクロス、できればMTBもやりたいと思っています」
では、新体制での目標は。
「今、若手選手がすごく強いので、僕が『全日本で勝つ』と言える状況ではまだありません。当面の目標は、12月に宇都宮で行われる全日本シクロクロスで表彰台に上がること。そして、その姿を応援してくださっている皆さんにお見せすることで、宇都宮の大会を盛り上げたいと思っています」
3人でサイクリングを
とはいえ、これから仕事が忙しくなる年齢であり、お子さんの子育てもある。実は、平日の夕食前の時間にリモートで行った今回の取材、ずっと後ろでお子さんの元気な声が聞こえていた。息子さんは1歳。まだまだ大変な時期は続く。
「そうですね。子育てが始まったことで競技に対する取り組み方も変わってくると思いますが、今のライフステージの中で全力で取り組んでいきます」
では最後の質問はお子さんについて。小坂さんがお父さんに自転車を教わったように、お子さんにも自転車を教えたいと思っているのだろうか。
「そうですね。自転車の楽しさは知ってほしいです。でも、必ずしも競技じゃなくてもいいとは思います。僕自身も競技人生において危ない目に何度も会っていますし。自分も父親から強制されたわけではないので、やりたいと思ったらやってほしいですけどね。レースをやらなくても、『自転車って楽しいんだ』ということは教えてあげたいと思ってます」
「そうして、いつか父と自分とこの子の3人でサイクリングができたら最高ですね。父親はまだちゃんと乗ってるんですよ。この前もカテゴリー1で走ってました。10番台だったかな。もう60歳なんですけど、転勤で職場が近くなって練習時間がとれるようになったみたいで、去年より調子よさそうです(笑)」
ライターとして駆け出しの頃、2008年か2009年だったと思うが、関東で行われていたシクロクロスのシリーズ戦(GPミストラル)に取材に行き、小坂さんのお父さんである正則さん(その大会では2位の選手に大差をつけ優勝された)にお話しをお聞きしたことがある。世界選に何度も出場している強豪選手で、ストイックな選手特有のどこか近寄りがたいオーラを纏っておられた。
レース後の片付けで忙しいなか、厳めしい表情を崩さず、新人ライターのたどたどしい質問に言葉短かに応えてくださっていたのだが、なにかのきっかけで光さんの話になり、「今ね、息子が自転車、頑張ってくれてるんですよ」と言ったとときだけ相好が崩れ、正則さんの顔に深い笑い皺が刻まれた。
世界選手権最多出場を誇る日本のシクロクロス・キングが一瞬見せた“父の顔”は、今でもよく覚えている。
だからというわけではないが、親子3代のサイクリング、ぜひ実現させてほしい。それまで、パパが楽しみながら頑張っている姿を、お子さんにたくさん見せてあげてほしい。父・正則さんが、光さんにそうしていたように。