フルブリーズインプレッション 灼熱の路上で楽しむために
2024年2月にビオレーサー・ジャパンが発売した「EPIC フルブリーズ ロードレースエアロスーツ」。ヒルクライマーをターゲットに絞ったこの日本独自モデルのインプレッション記事をお届けする。なお、執筆者の体形は165cm/56kg、試着ウエアのサイズはXSである。
裸が理想
もし機会があれば、人目のつかないところで、ジャージを脱いでインナーだけになって、軽く走ってみてほしい。ジャージを着ているときに比べると明らかに涼しいはず。爽快感とともに、「高機能化が進むジャージも風を遮っていたんだな」と実感できると思う。
もし思い切って上半身裸になれるのであれば、生地のテンションによって生じていた肩回りのストレスもなくなり、ライディングフォームをとるのがより楽になるはすだ。自転車用に限らず、機能性追求型ウエアの理想形は、「何も着ていない状態」であることを再認識する。
梅雨が明けていない時期から酷暑が続き、自転車乗りとっては過酷な環境になりつつあるが、この蒸し暑さを利用してフルブリーズの印象記をお届けする。
ビオレーサーのフルブリーズ、この記事で説明しているように、フィッティングと通気性を重視した日本のクライマーに向けて開発された日本独自モデルである。となれば、評価の焦点はフィッティングと通気性だ。
ワンピースがスタンダードになってもいい
フルブリーズは一般的なセパレートタイプではなく、ワンピースウエアである。ただ、前面パネルがパンツから部分的に分離しているセミワンピースタイプなので、かつてのワンピースのように「肩の関節外さないと着れません」ではなく、ちょっと上腕をくねらせれば難なく着れる。ただ、慎重に袖を通さないとピリッと音がして冷や汗をかきそうではある。
パンツの裾は長めだが、ルーズでもタイトでもなく、ちょうどいい塩梅。袖はややタイトだが、よほどのマッチョマンでなければ問題ないはず。しかし、しっかりと袖に腕を通しきって、肩回りにぴたりと密着させないと、ライディングフォームをとったときに突っ張って抵抗になるので注意が必要。
着用すると、一般的なビブショーツ+ジャージという組み合わせに比べてストレスが小さいことに気付く。ビブショーツだと肩にかかるビブ部分が両肩を圧迫して、微々たるものかもしれないが着用中ずっとストレスになる。しかしワンピースだと、肩部分はジャージ一枚のみで、かつビブのようにベルト状ではなく広い面積が接するので、肩にかかるストレスを全く感じない。着用感がいい意味で希薄だ。
ワンピースウエアは「レース時の決戦用」というイメージがあり、普段使いはビブショーツ+ジャージが一般的だが、着心地を考えればワンピースウエアを常用としてもいいと思う。
SPS(サイズパッドシステム)の意味
ウエアのサイズによってパッドの大きさが変えられるSPS(サイズパッドシステム)は予想以上に効果が大きかった。今回試したXSサイズには、下から2番目のサイズのパッドが装着されているが、この具合が非常にいい。今までは、「サドルとお尻との間に座布団が一枚挟んである」という感覚だったのが、これは「お尻に薄い布が一枚貼りついてるだけ」という感じ。今まで自分が使ってきたパッドが、いかに自分の臀部に対して大きすぎ、ウエアと腰回りとのフィットを阻害していたのかを痛感した。
乗っている間ずっと、というか着用している間ずっと、パッドのことを意識することはほぼなかった。
いかに体表面に多くの風を当てるか
フルブリーズの本懐である通気性、これは冒頭に述べたように、「インナーだけで走っている状態」に近い。生地自体も相当に薄く、ちょっと分厚いインナーという感じだが、走行時に肌に当たる気流の量は通常の目が詰まっているウエアより明らかに多い。
風に当たると涼しいと感じるのは、汗の蒸発が促されて気化熱(液体が蒸発するときに周囲から奪う熱)によって体の熱が奪われることだけが原因ではない。
風が全くないと、体表面から放出された熱は体の周囲に留まってしまう。風が当たることで、その熱が吹き飛んで、熱を含まない空気に入れ替わるのだ。例えば30℃の室内で扇風機を使っても、30℃の風が当たるだけで、冷たい風になるわけではない。なのに涼しいと感じられるのは、このような理由による。
ライド時は扇風機を背負って走るわけにはいかないから、「体表面にいかに風をたくさん当てるか」が、涼しく走るためのキモになる。ウエアの工夫で体に当たる風の量がここまで増えるなら、ヒルクライムという低速の環境でもパフォーマンスに影響すると思う。
気になる点と総論
気になる点としては、腕のフィッティングがややタイトなことと、フルブリーズ部分の生地が繊細で取り扱いには多少気遣いが必要なことくらい。また、デザイン面での工夫も期待したいと思う。このフルブリーズはオーダーが前提の商品ではあるが、特定のチームに所属していないサイクリストも多い。既製品としてジャパンオリジナルデザインのコレクション版フルブリーズも用意されているが、もっと多彩なデザインが用意されると嬉しい。
価格に関しては、約4万円と安価ではないが、ジャージとビブがセットになっていること、昨今の高価格化の流れを考えると、高くはない。下世話な話にはなるが、ジャージ2万、ビブが2万と考えると、他社ではエントリー~ミドルグレードのモデルしか買えない。高機能ウエアで上下を揃えると簡単に7万ほどになってしまう昨今、フルブリーズはコスパも非常に良好だと思う。
日本の夏の平均気温はどんどん上がっており、ここで言及されているように、統計開始の1900年前後に比べると6〜8月の平均気温は2℃ほども上がっている。一方、人間の体はたかが3世代ほどで高温に対応できるようになるほど進化はしないから、日本の夏で自転車を安全に楽しみたいなら高温対策は必須。フルブリーズがその一助になることは確かだと思う。