サイクルウェア最大手BIORACERの「人・モノ・コトが紡ぐサイクリングの物語」

Interview

【BIORACER MEDIAインタビュー~高岡亮寛さん~vol.3】 「日本の力を、世界へ」

高岡亮寛さんインタビューvol.3 「日本の力を、世界へ」

RX BIKEのオーナー、強豪チームRoppongi Expressのリーダー、そしてカリスマホビーレーサーとして知られる高岡亮寛さんが、2024年9月にデンマークで行われたグランフォンド世界選手権45-49歳カテゴリにて優勝、遂に世界チャンピオンになった。これを機に、ビオレーサーメディアはインタビューを行い、高岡さんの半生を追うことにした。最終回となるvol.3は、世界選手権での勝利と、今後の活動について。

再挑戦

大学時代にU23で挑戦したロード世界選手権は、優勝したイヴァン・バッソから20分以上遅れの130位でゴール。最終完走者だった。本人曰く、「走るだけで精一杯」。その後、一度は競技の世界から遠ざかるが、ホビーレーサーとして活動を再開。さらにチームとショップを立ち上げ、再び“自転車の人”となった高岡さん。40代も半ばになった今、再度世界を目指すこととなる。グランフォンド世界選手権とグラベル世界選手権だ。

UCIは、グランフォンドとグラベルの世界選手権を年齢別にカテゴリ分けし、各カテゴリで世界チャンピオンを決定するというフォーマットを採用している。高岡さんはこれまで、グランフォンドで6回、グラベルで2回、計8回チャレンジしてきた(2024年9月の取材時。その後2024年10月の2024グラベル世界選にも出場し、現在では計9回となっている)。

「ここ数年のライフワークとしていたのがグランフォンドとグラベルの世界選手権です。でも、最初から世界チャンピオンを目指していたわけではないんです。2017年に初めてグランフォンド世界選手権に出たときに2位になれたので、『もしかしたら自分にも世界チャンピオンのチャンスがあるんじゃないか』と思ったんですね。行く前はまさか表彰台に乗れるなんて思ってませんでしたが」

グランフォンド世界選手権には、プロ選手の参加こそ禁止されているものの、レベルは相当高い。

「参加資格は各国のグランフォンドワールドシリーズの上位25%なので、強い人たちはいます。元プロもいるし、レースの賞金で暮らしているアマチュア選手もいるようです。スポンサーをたくさん付けてインフルエンサーとして活動しているトップアマチュアも参加してますね。去年まではジョニー・フーガーランドが無双してましたし、去年はアレクサンドル・ヴィノクロフも出てました」

 

130位の高岡から、1位のタカオカへ

挑戦6回目にして、2024年のグランフォンド世界選手権で高岡さんは見事に優勝、45-49カテゴリの世界チャンピオンになる。詳細なレースレポートは高岡さんのnoteに詳しいので、ぜひ一読を。

「いつかは獲りたいと思っていたし、いつかは獲れると思ってましたが、こんなに早く実現するとは思いませんでした。予想外でしたよ。まだ実感がないんですが(笑)」

なぜ勝てたと思いますか?との問いに、たまたま自分にとってレースがうまく運んだから、と謙遜される。

「そもそも、あんな序盤(15km地点)から逃げるなんて考えていませんでした。残り130kmもある段階で一人で逃げても、誰も追おうとは思わないですよね。当日は先にスタートしている集団を捕まえながらレースを進めてたんですが、前から落ちてくる集団なので、そいつらと一緒に走ってたら追いつかれてしまいます。抜いてまた次の集団を目指して……の繰り返しだったんですが、たまたま捕まえた集団がすごくペースが落ちていたんです。僕がジョインして先頭をガンガン引いたことで集団が活性化して、ペースアップして僕のスピードに合わせてくれた格好になり、先頭交代しながら最後まで逃げ切ることができました。幸運が重なったんですよ」

vol.1で語っていただいた「レースにはまった理由」が、「純粋なフィジカルで決まる競技じゃないから」だったが、まさに今回の勝利はそこが効いたのだ。とはいえ、最高レベルのフィジカルがないと勝負に参加すらできないのだが。

デンマークで開催されたグランフォンド世界選手権のコース。距離152.9km、獲得標高1326m。

 

「最後は先にスタートしていた100人くらいの集団と一緒にゴールしたんですが、本当は単独でゴールしたかった(笑)。結果としては後続に1分半くらいつけて逃げ切ったんですが、レース中は情報がないので、後ろ(高岡さんの45-49カテゴリの集団)とどれほど差があるんだろうとか、もしかしたら追いついてるかもしれないとか、いろんなことを考えて。フィニッシュしたときは『勝った!……んだよな?』という感じでした。一応手を上げながらゴールしましたが、100%の確信はなかったんです。でもゴール後すぐにドーピングチェックがきたので、『俺、優勝したんだよね』と聞くと『そうだ』って。そこで初めて確信しました」

 

世代交代も

一つ大きな目標を達成したことで、燃え尽きたりはしていないのだろうか。

「現時点で燃え尽きたとは思ってませんが、一つ大きな目標を達成したので、もしかしたらこれからくるのかもしれません。アマチュアレーサーとして世界チャンピオン以上のものはないですからね。もちろん、“もう一回”とは思いますし、2年後はニセコでの自国開催が決まっているので、それは狙いたいです」

2026年のUCIグランフォンド世界選手権は、北海道のニセコで行われることが決定している。日程は8月26~30日だ。

「それに、いつまでレースを続けるんだろう?とは自分で思います。すぐやめるわけじゃないけど、今年の冬に心臓の手術をする予定なので、多少のブランクになります。それが、来年の活動のしかたを変えるいいきっかけになるかもしれません。今年のおきなわは勝つつもりでいきますが、フィジカルはどうしても落ちてきますし。世代交代して、もう少し長いレース、例えばアンバウンドなどを主な目標にするかもしれませんね。それなら高強度インターバルをする必要もなくなるので、もう少しリラックスして取り組めるかなと」

2年後のニセコで起きること

では、今後の目標は?

「実は今、レースよりもう少し大きな目標を考えてるんです。2年後にニセコでグランフォンド世界選が開催されます。もちろん自分は優勝を狙うんですが、日本人レーサーとして世界選を盛り上げたいなと思ってるんです。日本のホビーレーサーって世界的に見ても相当レベルが高いんですが、世界選で活躍できるかというと、このままじゃ絶対できない。みんな経験がないし、本当のロードレースを走れる人なんて多くないですから」

フィジカル的にはハイレベルだが、世界レベルのロードレースを走るには経験・技術不足ということ?

「そうですね。例えば日本のヒルクライマーは、身体能力だけで見れば世界レベルにあります。昔はクライマーは“上り専業”というイメージがありましたが、最近はそれが変わってきたように思います。山の神と呼ばれた森本 誠さんはロードレースでも強いですし、富士ヒルで優勝している真鍋 晃くんはおきなわでも2位に入って、今年もやる気です。乗鞍で勝って富士ヒルでも表彰台常連の加藤大貴くんは、今年のニセコで逃げをうち、おきなわも狙ってくる。そういう『身体能力が高くてヒルクライムがめちゃめちゃ強くて、かつロードレースもやる気がある』という選手が出てきているので、自分が彼らをまとめて、みんなで2026年のニセコで日本人の力を世界に見せ付けてやろうと。そんなプロジェクトを立ち上げて活動したいと考えています」

もしそれが実現したら、ロードレース界において、これ以上ないほどの痛快なイメージ逆転劇となる。

「今、名前を挙げた選手にはすでに話をしています。ニセコは自国開催だから日本人選手の数が多くなると思いますし、またとないチャンスなんです。『日本のアマチュアレーサーは世界レベルなんだ』ということを世界にアピールしたいですね」

楽しみだ。2年後のニセコで、筋骨隆々の外国人レーサーたちが日本勢の活躍に「Bullet Trainだ!」と驚くのも楽しみだし、これまでレースで勝つことに心力を注いできた高岡さんが日本アマチュアレース界の発展に貢献する姿も楽しみだ。ぜひ実現させてほしい。あと2年。まだ時間はある。

PAGE TOP