高岡亮寛さんインタビューvol.2 「やっぱりレースは楽しかった」
RX BIKEのオーナー、強豪チームRoppongi Expressのリーダー、そしてカリスマホビーレーサーとして知られる高岡亮寛さんが、2024年9月にデンマークで行われたグランフォンド世界選手権45-49歳カテゴリにて優勝、遂に世界チャンピオンになった。これを機に、ビオレーサーメディアはインタビューを行い、高岡さんの半生を追うことにした(全3回)。vol.2は、レースに復帰した理由と、今のレース界の問題点について。
Vol.1「世界は遠かった」はこちら
多忙のなか、おきなわで7勝
高校~大学と自転車競技を追求し、インカレでは日本一になった高岡さん。2001年に卒業したあと、本格的なレース活動からは遠ざかり、外資系金融機関のエリートサラリーマンとして多忙な日々を送っていた。
「自転車を完全にやめたわけではありませんでしたが、乗っても週に1回程度。会社の同僚に誘われて、富士チャレとかツール・ド・おきなわなどには出てましたが、競技というよりレジャー感覚でした」
「でも2006年のおきなわで10位になれたんです。それほどトレーニングはしておらず、明確な目標もなく、とりあえず出てみた、という感じだったんですが。そのときのレースがすごく面白くて。ちゃんと練習をしたらもっと上にいけるんじゃないかと思って、来年もまたチャレンジしよう、と。来年は勝ってやる、と」
とりあえず出てみたらおきなわで10位になっちゃった、というのがなかなか意味不明だが、ともかく競争の楽しさに再び目覚めた高岡さん。そのレース復帰を後押ししたのが、自転車だった。
「それまでは、学生時代に乗っていた三連勝のスチールフレームをそのまま使ってたんですが、CSCのイヴァン・バッソがジロ・デ・イタリアで優勝したときの愛車であるサーヴェロのR3をなるしまフレンドで買ったんです。2000年のスチールバイクからそれに乗り換えたとき、『これが同じ自転車なのか?』と驚きました。軽いし、路面からの衝撃吸収性も桁違い。それがすごく衝撃的でした。これは今でも記憶に残っています」

2006年、サーヴェロ・R3と共に参戦したツール・ド・おきなわにて。
タイム・VXRSも買い、しっかりと練習をして臨んだ2007年のおきなわで、見事勝利を挙げる。誰からもマークされないダークホースだったから、ではない。その後、ツール・ド・おきなわでは2011年、2015~2017年、2019年、2022年の計7回も表彰台の頂点に立っているのだ。しかも、そのほとんどを、多忙を極めるであろう外資系金融機関に勤めながら、である。

2022年、7勝めを挙げたツール・ド・おきなわにて。
チームとショップ
そしてまたレースにどっぷりの生活になった。「学生時代よりもはまってるかもしれない」と高岡さん。2017年には自身が主催するチーム、Roppongi Expressを立ち上げる。
「それまで所属していたイナーメ信濃山形は、多くの人に門戸を開くチームでした。それもあって、レースのときだけチーム名を使う選手もいて掛け持ちも多く、チームメイト同士の結びつきが弱かったんです。それが悪いわけではありませんが、自分の考えとはちょっと違うなと。かといって、人が作ったチームですから、自分が方針に口出しすることではない。だったら自分の考えを形にしたチームを立ち上げようと」

国内屈指のアマチュアレーシングチーム「Roppongi Express」。写真中央が高岡亮寛さん。
そして、2020年には職を辞して「RX BIKE」をオープン。
「ショップは自分が理想とする世界を追求しつつ、自分に共感してくれる自転車好きの人たちが集まってくれるような、コミュニティを作ることができればと考えています」

2020年、東京目黒区にオープンしたRX BIKE。「PEDALING MAKES THINGS BETTER」がコンセプト。
レース界の大きな問題点
こうして、カリスマホビーレーサーにして強豪チームのリーダーであり、かつショップのオーナーという“自転車の人”になった高岡さんに、今の自転車業界の問題点を聞いてみた。
「いろんなレースに出ていると、競技の安全性が問題になっていると感じます。レース人口が増えているぶん、事故も増えるのは当然なんですが、今はマイナスの要素が多いんです。まず、入口が広くなった。競技人口の正確な数字は把握してませんが、鈴鹿ロードとか富士ヒルのような1万人規模の大会なんて昔はなかったし、今みたいに毎週レースはありませんでした。漫画やSNSをきっかけに入ってくることも増えました。それで間口が広がったのはいいことなんですが、今は自転車を買えば誰でも始められます」
「でも、それだけじゃ本当はだめなんです。昔なら、ショップのチームやクラブに所属して練習会で経験者に指導を受けながら、最低限のテクニックとマナーを身に付けたうえでレースに出たものです。今はそのステップがない。しかも、機材の進化によって、昔とはくらべものにならないくらいのスピードが出ます。だからといってF1のようにレギュレーションでスピードを抑制するのは無理だし、やるべきではありません。レースの参加のハードルを上げて人数を絞るというのも、業界の発展を考えたら適切ではないでしょう。だから、選手たちの安全意識をもっと高める必要があると感じています」
現代のサイクリストは、ショップに行かずして人と触れることなく直販でツールに出ているのと同じ高性能バイクが手に入り、インドアサイクリングで心肺能力とパワーだけは身に付く。その結果、レースで「速いのに走りが危ない」というライダーが増えた。それは多くの関係者が異口同音に口にすることだ。レースを愛する高岡さんはそれを危惧している。
「安全走行教室のような草の根活動を増やして、そうして一人ひとりの技術レベルと意識を高める必要があると思っています」
※Vol.3では、この数年間、高岡さんがライフワークとして取り組んできた世界選手権と、今後の活動について語ってもらう。